このアルバムは年々凄さを増す
聞く側の精神的成長と共に育っていくアルバムだ
イギリスではほとんど評価されず
アメリカでもエルトンのキャリアから考えると
ランキングも低めのアルバム
しかし、これほど内容の濃い作品群は他には無い。
コアなファンはエルトンのアルバムの中で
最高傑作としている方もいるだろうと思われる
タイトル通り、
MADMANたるエルトンが海を渡って
海外で活躍するその少し前からの、
その意気込み、苦悩が描かれている
どの曲も
その時が缶詰のように閉じ込められていて
開けるとまるで昨日のような雰囲気と
匂いまで感じる事が出来る作品たちだ
晩年になってからの方が、
エルトンのこれまでの華々しい経歴を考えると
むしろこんな苦悩や感動があったのかと
再発見できるアルバム。
1曲目「Tiny Dancer」について
もう、何の言葉もいらない歌ですね
一番好き!
という方も多いですね
綺麗なメロディーにエルトンの初期のまだ初々しさいっぱいの声
そして、それが自分たちの歌が
口ずさまれている感動と
挫折や苦悩の中、
ミュージシャンとしてやっていける!
と自信が確信に変わる瞬間が詰め込まれている
「マキシンに捧ぐ」というサブタイトルは
バンドの衣装係で
後にバーニーの嫁になる女性がマキシン
エルトンの恋愛歌で凄いなと思うのは
自身が性的マイノリティーを抱える中、
まるで乙女のような気持ちで曲を作曲していると思われる点だ
男であろうが女であろうが
複雑なマイノリティの人であろうが
人を好きになるというのは
とても美しく
脆くも弱い部分が露出する瞬間だ
エルトンはきっと
そういう面では時代背景もあって
かなり苦労したであろう
その自分の難しい恋心が
彼の作曲の
そして優しく美しく歌い上げる原動力そのもののような気がする
この曲、美しいバーラードと思われがちだけど
よく聞いてい欲しい
このグルーヴ感は紛れもなくエルトンのロック魂が込められている
2曲目「Levon」について
バーニーの物語ソングらしい一曲
リーヴォンの父親アルヴィン・トスティグは戦争に行って
大変苦労した人物。
しかし、本人の苦労など知らない人たちからは陰口をたたかれている
その息子のリーヴォンはとてもいい人で
みんなに好かれている。
しかし、リーヴォンのその人柄も実は親父の思いがあってこそ、
誠実に人に育ったのだ、、、
普通ならそこで終わりそうな物語だが
バーニーは更に進んで
リーヴォンの死と共に
父親の想いが成仏するシーンがバルーンに乗り移ってクローズアップされている
3曲目「Razor Face」について
このカミソリキズの男
エルトンがモデルではないかと思われる
エルトンはかなりのひげ面、しかも剛毛だ
人付き合いが上手でないエルトンに対して
バーニーが「俺は知ってるよ、君が愛すべき奴だってことを、、、」
そんな風に歌ってるように聞こえるのだ
エルトンは繊細で気難しいんだろうなぁ、、、
4曲目「Madman Across The Water」について
まさにエルトンの歌
あの小さい身体から
驚くべき爆発力を発揮するエルトン
普段は無口でナイーヴな青年が
ピアノを前にすると
飛び回ってシャウトする
「こち亀」の本田巡査がバイクにまたがると
無敵になるような感じ
そのエルトンが活躍の場を海外に求める歌
こんな歌を歌えるなんてやっぱりエルトンは凄い
リアルタイムミュージカルだわ
5曲目「Indian Sunset」について
この歌、
実はエルトンとバーニーの事を知ってもらいたくて
youtubeで映像にしたいと思ったきっかけの曲
それくらい世界観に溢れた作品
エルトン本人も言うように本当に「映画のような歌」
「ゴッドファーザー」とか
「市民ケーン」に匹敵する様なアカデミー賞ものの作品ではなかろうか、、、
6曲目「Holiday Inn」について
この曲は前作の「Tumbleweed Conection」の作風に近い
カントリー調の曲なのですが
これもエルトンらしいグルーヴ感があり
イキイキとしている
売れるかどうか分からない
そんな若い頃の不安定な気持ちと
やってやるぞという意気込みが込められている
今でもこれを聞くと、頑張ろうと思わせてくれる素晴らしい一曲
7曲目「Rotten Peaches」について
ちょっとずつズレ始めているエルトンとバーニーの仲
それを忠告する様な歌
これもリアルミュージカル的な曲の一つ
こういう皮肉めいたバーニーの詩が
ところどころ出てくるようになるのも興味深い
8曲目「All The Nesties」について
バニーの世界平和を祈る詩
ジョンレノンの「イマジン」でも歌われている
「宗教なんてない」という一節に焦点が当たっているような詩
宗教が返って争いのもとになっているのでは?
という思いを感じる
9曲目「Goodbye」について
エルトンの歌への想いがポジティブに表現されたのが「Your Song」だとしたら
こちらはバーニーの詩人としてのネガティブさが表現されている歌
自分なんて生きていても無駄な存在だけど、
出来る限り書いてみよう
だけど、時々何の役に立つのか?と陰鬱になってしまう
そんな苦悩が見え隠れする
また、バーニーの作風と
エルトンのやり方とが合わなくなってきてるのを実感し
バーニーの心の叫びとでもいえる作品
「Goodbye」と寂しすぎるタイトルだけど
エルトンとバーニーの関係はこの後もまだまだ続き、
バーニーは書き続けることになる
さて、ざっとアルバムを聞いてみると
若きエルトンとバーニーの人生そのものが詰まっている
この後にエルトンは世界的スターダムにのし上がる
だからこそ、この作品は
その当時よりも
現在の方が重みを増している
後の成功が
マッドマンが海外進出したことが正解であった事が証明されるからだ
当時のイギリスでは
エルトンのような破天荒は認められなかったのだろう(その昔、エルトンのライブでバラードシンガーと思っていたらしき客が演奏が始まると数曲で帰っていったのを見たことがある)
しかし、エルトンのステージパフォーマンスは
もうロックンローラーというか
まるでパンクロッカーのようで
初期のビートルズのようなネクタイにスーツやジャケット姿を求める
イギリスには受け入れられなかったのかもしれない
それが後のエルトンの奇抜な衣装にも影響を与えたようにも思える(これでもかこれでもか!というような対抗心、ワザと無茶苦茶な型破れを演じることになる)
その売れる前の心模様
海外進出の意気込み
不安、
喜び、
全部が込められたアルバム
それが「Madman Asross The Water」なのだ
これから音楽をやる人、
音楽でなくても
何かで頑張って行こうと思ってる人
第二の人生を歩みだす人
色んな方々が元気をもらえるアルバムではないかなと思います