#1 初日から地獄(後編) 守銭奴山姥の宿
1985年7月27日 夜、大津駅に到着。
本来なら駅周辺で野宿するつもりだった。
しかし、初日からの試練の連続に心身ともに限界。
猛暑の中、何時間も走り続けた疲れ。
突然のパンク。
地図の不備による迷子。
そして、西大津バイパス(自動車専用道路)を走る恐怖体験。
とにかく休みたかった。
「今夜は宿を探そう」と決めた僕は、大津駅前の交番を訪れた。
🚔 道標の天使との出会い
交番の中では、一人の警察官が机に向かっていた。
僕が恐る恐る声をかけると、すぐに顔を上げ、穏やかな笑顔を向けてくれた。
「どうかしましたか?」
その表情はとても優しかった。
ここまで道を尋ねては適当な対応をされ続けた僕にとって、彼の笑顔は救いの光だった。
「この辺で安い宿を探してるんですけど……」
「なるほど、泊まる場所が決まってないんだね」
彼は壁の地図を指さしながら、候補を探し始めた。
「このあたりなら安い宿がいくつかあるよ。予算は?」
「できるだけ安いところがいいです」
「うーん……じゃあ、ここがいいかな」
そう言って指差した宿に、警察官はその場で電話をかけ、空き部屋があることを確認してくれた。
「よし、大丈夫みたいだ。ここなら問題ないと思うよ」
僕は安心した。
今夜はもう何も考えずに眠れる。
「ありがとうございます!」
僕は丁寧にお礼を言い、警察官の指示通りに宿へ向かった。
この警察官は、まさに**「道標の使い」**だった。
道標の使い
出没場所 大津駅前の交番 |
懇切丁寧の道案内。 地図を書いてくれたり、電話で確認を取ってくれたりする。 |
先回りして色々考えてくれ、機転が効く。 |

しかし、このときの僕は知らなかった。
これから向かう宿に、「守銭奴山姥(しゅせんどやまんば)」が待ち構えていることを——。
👹 宿の主、守銭奴山姥
警察官に教えてもらった宿に到着すると、すぐに女将が現れた。
しかし、その足音が尋常ではなかった。
「ゼニゼニ……カネカネ……」
妙な床音を軋ませながら、まっすぐこちらへ歩いてくる。
その動きに、僕の警戒心が一気に高まる。
(こわっ……!)
彼女は60歳前後の女性で、パッと見は普通のおばさん。
しかし、近づいてくる圧が異様だった。
「あんたかいなゼニ、さっき警察が電話してきた客はカネ」
「はい……」
「ケッ!ゼニゼニカネカネ」
彼女は吐き捨てるような声を出し、乱暴に振り向いて奥へ歩いていく。
背中を見ながら、僕は思った。
(この人間離れした雰囲気……まさか、妖怪!?)
🛏️ 罠の部屋
通された部屋は、日本家屋にしては妙に窓が少なかった。
しかも、異様な密閉感がある。
「小さい窓があるけど、開けないように! 蚊、虫が入ってくるから!」
女将はそう言い捨てると、バタンと襖を閉めた。
(え、なんか怖い……)
旅の疲れがピークに達していた僕は、とにかく顔を洗いたかった。
荷物を置き、洗面所へ向かう。
蛇口をひねり、タオルで顔を拭いた——その瞬間。
「ゼニゼニ……カネカネ……」
(!?)
振り向くと、すぐ横に鬼の形相の女将が立っていた。
「そこを使わないでッ!!カネカネ!」
甲高い声が響く。
僕は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
洗面所を使っただけなのに、なぜこんなに怒られているのか?
「す、すみません……」
女将はギロリと睨みつけると、「早く風呂に行けゼニゼニ」と促した。
あまりの迫力に逆らうことができず、すぐに風呂場へ向かった。
僕の直感は確信へと変わった。
この女将、人間じゃない。これは、宿に住み着く妖怪・守銭奴山姥に違いない!

守銭奴山姥
出没場所 滋賀県大津の安宿 |
窓のない蒸し暑い部屋に案内し、45分で切れる冷房やテレビで旅人から金を取る |
歩くと「ゼニゼニ、カネカネ」と床音がなる。 言葉の終わりにもゼニゼニカネカネと言う。 |
💰 100円冷房の罠
風呂を済ませ、夜10時過ぎ。
ようやく横になれると思ったが、部屋が異様に暑い。
(なんでこんなに蒸し暑いんや……?)
不審に思い、部屋を見回すと——
テレビと冷房の横にそれぞれ「100円1時間」の文字。
(なるほど……そういうことか……)
要するに、金を払わないと快適に過ごせない仕組みになっている。
しかも、扇風機すら置いていない。
ここまで「金を巻き上げること」に特化した部屋は初めてだった。
100円玉を投入。
「ブオォォォ……」
冷房が動き出した。何処となく冷房器具が守銭奴山姥に似ている。
一応、涼しい風が吹いてくる。
しかし、45分後
「プツン」
冷房が止まる。だけでなく、生温かい妖気が漂い始める。
部屋の中は再び蒸し暑さが戻る。
(うわ、マジか……1時間と書きながら45分で切れるとは!さすが守銭奴山姥!)
仕方なく、もう100円を投入。
再び涼しくなり、また寝る。
45分後、また止まる。
そして、繰り返し100円玉を投入するうちに、ふと気づいた。
(ヤバい……小銭が、あと1枚しかない……!)
最後の100円玉を投入。
もう、これ以上は冷房をつけられない。
もしこれが切れたら、僕は朝まで蒸し風呂の中で耐えなければならない。
僕は決意した。
(明け方、守銭奴山姥が起きる前に、逃げるしかない……!)
🌅 守銭奴山姥からの脱出
翌朝、まだ辺りが暗いうちに、僕は静かに荷物をまとめた。
守銭奴山姥が目を覚ます前に、この宿を出なければならない。
宿代を支払い、そっと玄関の扉を開ける。
空気がひんやりしていて、朝の静寂が心地よかった。
僕は自転車にまたがり、ペダルを踏み出した。
「守銭奴山姥の宿」——二度と泊まることはないだろう。
(次回:「アップタウンデビルと暴風魔人の試練」へ続く!)
16歳の僕と56歳の俺の反省会
56歳の俺「初日からえらいハードやったね!」
16歳の僕「マジで地獄でした……。暑いし、100円ないと眠れへんし、絶対ワザとや。」
56歳の俺「そら守銭奴山姥の策略やから(笑)」
16歳の僕「いや、ホンマに! 客を逃がさず金巻き上げるために、部屋の作りから何から仕組まれてるねん!」
56歳の俺「ガチで戦略的な妖怪やな……。」
16歳の僕「だから、実際夜明け前に出ようと思ってました!」
56歳の俺「逃げる準備までしてたんかい!(笑)まぁでも、お前はこれで 「旅の宿の見極めスキル」 が上がったな!」
16歳の僕「せやなぁ……。あの日以来、妖怪アンテナが敏感になったかも?(笑)」
56歳の俺「しかし、昭和!ビジネスモデルとしても鬼畜すぎる…。高校生にも容赦ないね!
コレはやっぱり守銭奴妖怪の仕業やね。」
16歳の僕「はい、初日から鍛えられました!」
あなたは妖怪屋敷みたいな宿に泊まったことございますか?
また、道案内でわざと迷うような人に出会ってしまったことはありますか?
コメントでぜひ教えてください!😊
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