旅のタイムカプセル

#17 サロマの天の川、そしてジャンボ消失(紋別〜サロマ)

1985年8月12日 日の出見れず & 旋風小僧の悪戯

強い日差しで目が覚めた。
しまった。日の出鑑賞の機会を逃してしまった。
目覚まし時計がないので、ついつい寝過ごしてしまったのだ。
食堂へと向かう。

久しぶりのご飯の朝食におかわりを重ねる。
部屋へ戻り今日の目標を確認。
新潟の妙智寺ユースでライダーに教えて貰った「船長の家」への距離を見定める。
約70キロ。ゆっくり走っても昼過ぎには到着出来る余裕の行程。
とにかく食べきれないほどの食事と面白い主人。
教えてくれたライダーが大人気で常に満室というので、5日前の小平から予約を入れていた。これまでの走りを考えるとちょっと余裕を持ちすぎたかなと考えたが、結局雨に祟られたりしたので、丁度良い行程となった。

8時20分紋別流氷の宿を出発。
昨日洗濯して干していたトレーナーとGパンがまだ生乾きだ。
気温も低くて洗濯物がこれまでより乾きにくい。
これも流氷亡霊のせいか?
先日濡れたまま袋に入れていた衣服がカビ臭くなっていたことを思い出し、自転車の後ろにくくりつけ乾かしながら走ることにした。

この油断がいけなかった!
高低差のない道路を気分良く走って1時間ほどした頃、括っていたトレーナーとGパンがどの程度乾いたか確かめることにした。
すると、Gパンはあるもののトレーナーがない。

暴風魔人?
いやっ。もっと小さな旋風の仕業だ!
そうかっ、大きな暴風魔人だと警戒するけど、小さいから油断をして飛ばされてしまったのだ。10枚持ってきていたタオルをほとんど落としてしまったが、あれも全部旋風小僧の仕業だったんだ。
そうして今度はとうとうトレーナーまで飛ばされてしまった。愕然とした。
どこからともなく声がする。

『ウケケケッ!またやったった!』

旋風小僧が現れた!
小けれど目で追えないほど素早く動く。
そして、僕のタオルやはみ出た荷物を引っ張る。

「ウケケウケケ、フーッフーッ!

僕はタオルをしまい、カバンやリュックのチャックを閉め直した。
ちくしょー!なぜ気が付かなかったんだ!
それにしてもトレーナー。
朝晩寒さを感じるこの北海道で長袖の衣類はとても貴重。
今着ているものと合わせて2枚持ってきていた。
そのうちの1枚を失った。
これからますます必要になる長袖。
僕は諦めきれず来た道を30分ほど戻ってみた。

「ウケケウケケ、フーッフーッ!もう戻っても遅いよ、フーッフーッ!」

薄ら笑いの旋風小僧。こざかしくて腹が立つ!
しかし見つからなかった。
もう少し戻ろうかと考えたが、見つかるかどうかも分からない。
僕は交番に行って遺失物として届けた。
もし見つかったら大阪に着払いで送ってもらうことにした。
交番でトレーナーの特徴を詳細に書いた。
とても気に入っていたトレーナーだったので、執着してそこまで手を打った。
戻ったり警察に行ったりでかなり時間をロスしてしまった。
旋風小僧は満足げに「ウケケウケケ、フーッフーッ!」と笑いながら去って行った。

サロマ湖

11時前、湧別町着。
少し走ると目の前に海が広がった。真っ青な海と思った。
それがサロマ湖だった。

北海道で一番大きなサロマ湖は僅かな切れ目を残して湖となっている。
その為、塩湖と呼ばれる水質は海と同じ。
深い青のサロマ湖は二週間前に見た琵琶湖とは違って、南のリゾート地の海のような美しさだった。サロマ湖が左手に、右手には優雅に国鉄が行く。
その間に走る国道を僕が走っている。

素晴らしい風景。
映画や旅のドキュメンタリーでいつか見たような恋焦がれる自然を旅する風景そのものだ。僕は去り行く国鉄を見ながら、いつか鉄道の旅も悪くないだろうなと、初めてそう思った。

程なくすると計呂地駅という可愛い名前の駅にやってきた。
そのカエルを連想させる名前は一度覚えると忘れられないと思った。
猿払のサル、雄武のオウム、そしてケロチ。
アイヌ語を語源とした地名に無理やり漢字を当てはめて、しかも微妙に読みやすいように変化させているからだろう。北海道にはユニークな地名が多い。

「船長の家」はサロマ湖の東端に位置し、湧別からのルートは完璧と言えるサイクリングコースだ。展望台や岬、短い夏を謳歌する草花。
そのどれもが素晴らしく、観光客を楽しませるための道路かとさえ思われた。
あまりの走りやすさに午後1時半「船長の宿」に着いてしまった。
チェックインは2時。少し待たなければならない。
フロントのソファに座って漫画を読みながら待つことにした。

2時。ようやくチェックイン。喜んで部屋に向かう。
しかし、されとて何もすることはないのだ。
他に相部屋の人もいない。

そもそもまだ2時。
こんな時間に到着する人はそもそもいないのだ。
部屋には14インチのテレビがあった。
無料だ。スイッチを入れる。
3つほどのチャンネルしか映らない。

こんな時間にテレビを見るのは大阪を出て以来初めてだ。
番組の内容はとうもろこしの食べ方で性格占いというものだった。
くだらない。
実にくだらない。
テレビを消すと寝入ってしまった。

海賊船

「お知らせします!」

突然の大音量の放送に飛び起きた。

「海賊船が出港します。尚、定員は20名。希望者はフロントまでお越しください。」

起こされた僕は寝起きが悪かった。
が「海賊船」という響きが気になって、吸い寄せられるようにフロントに向かった。
海賊船? サロマ湖に? …まさか、マストにドクロ旗!? クック船長?

フロントに行くと既に数人の人が並んでいた。僕も列に加わる。何が起こるのか分からなかったが、「海賊船」の響きから「船に乗る」事は容易に想像できた。そして、それはもちろんサロマ湖に出るのだろう。順番が来ると黄色い紙を手渡された。それは乗船券だった。
黄色い紙を渡された人達と待っていると「船長」と呼ばれる40年配の男がやって来た。お腹がでっぷりと出た男はいかにも酒飲みといった感じで、僕が想像したクック船長には程遠かった。クック船長というより裸の大将といった風貌だ。
船長と呼ばれる男は北海道民のいかにも人懐こい笑顔で僕たちを船へと案内してくれた。
サロマ湖畔へと歩いて向う。話の雰囲気から釣りに出かけるという事がわかった。

釣り!サロマ湖で釣り!

思いもよらなかった。クッチャロ湖でルアー釣りが出来たらと想像するくらい釣り好きの僕がここで釣りができるなんて!何て幸運!
午後4時半、サロマ湖半到着。木製の桟橋、というより橋桁に括り付けられた船が目に入る。海賊船にはドクロのマークも立派な帆もなかった。船は平舟。かろうじてエンジンが付けられていた。
「これ、海賊船どころか”漁師のじいちゃんの船” やん……」
完全な名前負けだ!
しかし、ガッカリ感は全くなかった。軋む音のする橋桁を慎重に歩いて船に乗り込む。この北の地でサプライズの釣りをするにはもってこいの船、橋桁、腹のでた大将船長。自然と笑みが出る

船はエンジン音を響かせて沖へと走る。
湖とはいえ、サロマ湖で当たる風は完全の海風そのもの。潮の匂い、肌にまとわりつくような潮風。平船のお陰で海面に目線が近く、実際のスピードより早く感じる。来て良かった。
程なくすると船長はエンジンの回転数を落とし、ゆっくり船を停めた。
「さぁ、やろうか!」船長は声をあげて、まず見本を見せるからと釣りの準備を始めた。釣りといっても釣り竿はなく手釣り。仕掛けが巻かれた凧揚げに使うような糸巻きを手に取ると、僕たちに見せながら、「先に針がついてるからこれに餌をつけて落とすだけ。クイクイと魚の引きがあったら引っ張る。手応えがあったら糸を巻いて魚を船の中に引き上げる。それだけ。」と説明した。
その後、船長は実際に餌を用意する。用意されたのはホタテ貝。しかも殻を閉じた状態の生きたホタテ貝だ。
船長はホタテを片手に ナイフ一本で”バキッ”とこじ開けた
中には透き通るような瑞々しい白銀ホタテの裸体が出現した。何たるエロティック!
「これが最高にうまいんだよ」
そう言って、ためらいなく口へ放り込む。
ズルッ!」
モグモグ……」
ゴクン!」
船長の目が細くなり、満足そうに天を仰ぐ。

それっ!もう絶対うまいヤツやん!

僕は思わず唾を飲み込んだ。ホタテを手慣れた様子で開くのも初めて見たが、あんなにうまそうなホタテの貝柱を食す姿も始めただった。開かれた貝殻の上に残ったヒモを船長は何等分かに切り分けて、釣り針にチョン掛けした。「じゃぁ皆んな始めて。」
僕の意識は釣りからワイルドにホタテを食べる事に移ってしまった。
仕掛け板が配られて、各々釣り開始。
女性で釣りが初めての人もいて、同行した従業員が手助けする。
僕は慣れていたので、すぐに餌の付いた釣り針をサロマ湖に沈めた。これが実によく釣れた。1時間も経たないうちにカレイを3尾、カジカを6尾、合計9尾を釣り上げた。カジカは大きな口をしており、餌を一気に飲み込もうとする。その為、釣り上げると針が喉の奥に刺さっていたりして外すのが大変だった。逆にカレイは口が小さく針が飲まれる事がない。カレイばかりを釣り上げることが出来れば好釣果になりそうだった。

船長は僕たちに底まで仕掛けを落とすように言った。カレイもカジカも底で釣れる魚だからだ。しかし、どう見ても船長が狙っているのは中層だった。
すると船長の糸にカレイやカジカとは明らかに違う反応があった。
力強いやり取りの末、上がって来た獲物は鮭。鮭にしては小ぶりだがそれでもカレイやカジカばかりを見ていた僕はその大きさと引きの強さに驚いた。

船長は鮭を釣り上げた瞬間、キョロキョロと周囲を見渡した。
「……おぉっと、こいつはな……」
俺たちが見つめる中、船長はニヤリと笑い、声を潜めて言った。
「シャケはな、密猟だからダメなんだけど……」
そう言うと、迷いなくナイフを取り出し、シュッと締める。
「シーっ!」
俺たちは顔を見合わせ、笑ってしまった。
船長はどこまで行っても子供がそのまま大人になったイタズラ坊主なのだ!

先ほどのホタテを食すシーンといい、船長の天真爛漫な行動が自然と生きるガキ大将のようで、愛らしくも羨ましく感じた。

サロマの夕景

午後6時前、釣り終了となった。もう空はすっかりオレンジ色。美しい夕景のサロマ湖上。エンジンは唸りを上げて岸を目指す。この夕景をゆっくり見たくて、隣の女性が太陽が沈む前に岸に帰りたいと声を上げた。それまでには十分間に合いそうだが、一刻も早くという気持ちが伝わってくる。船長もそれを察したのか「もうすぐだからな」と大声でみんなに伝え、ほんの少しエンジンの回転数を上げた。もと来た橋桁が見えてきた。岸辺にはたくさんの人が夕陽を見に来ていた。

出船前から船長は「空模様から見て、今日の夕陽は最高だろう。」と言っていたがまさにその通りだった。別の宿に宿泊しているだろう人々も大挙してサロマ湖畔に集まっている。
僕らの船がボロボロの橋桁に到着すると、行きは怖がって恐る恐るだった女性も素早く橋桁をやり過ごして岸へ上がる。手にはカメラが握られている。
時折振り返りながら夕日を目で追っている。

船長は腕を組みながら、ゆっくりと夕陽を眺めていた。
「……今夜は酒が美味いぞ〜」
そう言って、大きく息を吐いた。
僕はふと、船長の横顔を見た。
いつもの陽気なガキ大将みたいな表情じゃない。
まるで、この湖と一緒に生きてきた “本物の船長” の顔だった。

何もないサロマ湖畔に数十人の人々。話し声はまばら、ただ沈みゆく太陽を見ている。
言葉は要らないのだ。
ついに太陽が水平線にくっついた。そこからは目に見えて太陽が沈みゆくのが分かる。
空は 燃えるようなオレンジ から 深い茜色 に変わっていく。
水面が光を反射して 黄金の道 を作り、その先に沈みゆく太陽。
穏やかな波の音。
サロマ湖の潮の香りが、そっと鼻をかすめる。

ついに最後の陽の光も水平線に引き摺り込まれてしまった。
名残惜しい名作映画のエンディングのような満足感、
いや、今日という日が終わったんだという寂しい気持ちが渦巻いていた。

「……まるで一つの旅の終わりのようだ、」

映画のエンドロールを最後まで見る観客のように俺は立ち尽くしていた。
気がつくと、周囲はすっかり黄昏ていた。
あんなにいた人たちももう殆どいない。
俺は一人でトボトボと船長の家に戻った。

個性的な旅人

部屋に戻ると、6畳の相部屋は僕を入れて6人という事になっていた。

6畳で6人。洞爺湖ユースと同じだ。

さすがに狭い。
だけどここではいつもの事らしい。
やはり人気の宿なのだ。

軽く自己紹介のような感じで挨拶。
一人は「ガス欠SR」こと、知床でバイクがガス欠になってしまい土下座して過ぎゆく車を止めてガソリンを貰ったライダー。
「アブサン」は北海道一周ではなく、三周目との事で「サン」が付いている。
じゃぁ「アブ」は何の理由?聞けばカムイワッカという滝の上に温泉があって、そこは何でも無料のワイルドな露天風呂があると言う。

彼はそこで女性の入浴を覗こうと隠れて過ごしたらしい。
3日間は男ばかり。4日目、5日目、とうとう女性が来た。
しかし、入りにくる女性も覗かれないよう水着で入るのが普通らしい。
いつか必ず!と粘って7日目、とうとう生まれたまんまの姿で入浴する女性がやってきたというのだ。

「俺は息を潜めて耐えた。実に過酷だった。見てくれ、この全身アブに刺された痛々しい傷跡を!」
そう言いながら、袖をめくると、そこには無数の赤い斑点……。
「めっちゃ腫れてるやん!」
「ガチやん!」
「……で、肝心の成果は?」

彼は真顔で言った。

「2秒」

「は?」
「だから、7日間耐えて、2秒」
「……何が?」
「見れたの、2秒だけ」

俺たちは全員、思わずズッコケた。
「そんなこと誰も聞いてない!」

アブに刺されながら7日間粘って、見えたのが2秒……。
だけどその2秒が俺には永遠に思えた。

アブサンは夢見心地で視線を中空に漂わせてる。

いかにも自分は努力家だと言いたげの彼は演説は終わった。
話を聞くのを2回目の人はあくびをしながらもうダメと首を振る。
僕は1回目からこの人ダメだと思った。

別のライダーに「スーパーカブ」と呼ばれる人がいた。
もう名前のまんま、スーパーカブで北海道一周をしているという。
彼はによると通常ライダー同士はすれ違いざまにVサインや手を振って旅人同士、無事故を祈念して挨拶する。

しかしスーパーカブで回る彼は地元の酒屋感いっぱいで誰も挨拶してくれないと嘆いた。
僕はその人に妙な親近感を覚えた。
もう一人ライダーがいたが彼は無口でほとんど話さなかった。
ただ笑顔で話を聞いていた。
しかし突然、口を開いた。
「昨日、そういえば凄い人たちを見たよ。リヤカー引いて北海道一周してるみたいな。」
するとみんな口を揃えて、
「知ってる知ってる!千葉大の奴らだろ!」
僕も二日前に猿払村で見たところだったので大きく頷いて、
「僕も見ました。浜頓別に向かう途中で、3人の男がリヤカーを引いたり押したりしてました。」すると、一人が
「えっ、もうそんなところまで行ってるの?俺が見た時は釧路。しかも人数は8人いたよ。」「いやいや弟子屈あたりで5人だった。」と、みんな同じ千葉大の旗を掲げたリアカーの話までは合っているが、人数がバラバラなのだ。恐らく脱落者が出たのだろうと推測した。

「しかし、こいつもなかなかやってくれるよ!」と僕の肩を叩いて言った。
「オバチャリで大阪から走って来たんだと。」

「えーっ!!」 と驚くライダーたち。

「もしかして赤い自転車?」 とアブサン。

「はい」

俺が答えると、ライダーたちは 「ウワサのヤツか!!!」 と声を上げた。

どうやら、どこかの宿で 「赤いオバチャリで北海道一周してる高校生がいる」 って話が出てたらしい。

「っていうか”オバチャリ”って何やねん!”ママチャリ”ちゃうんか!」

「いや、北海道では”オバチャリ”やねん!」

「……オバチャリって響き、ちょっとカッコ悪くない?」

「せめて”赤い流星号”とかにしてや……」

豪勢な夕食

「夕食の準備が整いました。食堂までお越しください、、、」

放送がなった。僕たち6人は手を叩いて「そら来た!」と喜んで立ち上がった。僕は新潟で「船長の家」の食事の話に圧倒されて楽しみにしていた。その他の彼らも食事の噂を聞きつけここにやって来た。待ちに待ったクライマックスなのだ。

並べられた料理を見て、僕は涙が出るほどだった。
「これが……俺の求めていた晩餐……!!」

家を出てから、こんなにも 「食」に歓喜する日が来るとは思わなかった。

「うぉぉぉおおお!!」
誰かが叫んだ。

「これが噂の”船長メシ” かぁぁぁ!!!」

目の前には、 刺身、鍋、フライ、煮魚、焼き物、鍋があるのに、さらに味噌汁!?

「豪華すぎる!どこまでが俺の分や!?」

「ええい!食べるぞー!」

誰もが、もう箸を握りしめ、 “戦闘態勢” に入っていた。

しかも、ご飯も味噌汁もおかわり自由。

それぞれ拳を突き上げる者。
へたり込んで涙を浮かべている者。
土下座して祈りを捧げる者。

とにかく来た甲斐があった。

僕は 丼飯を5杯おかわり。
いや、6杯目いけるか? いくか?

……胃袋がはち切れるほど食べてしまった。

午後8時、船長が春夏秋冬の船長の家を紹介するスライドショーを始めると言う。
部屋が暗くなった。画面に映し出されるスライド。

満開の桜の下で、笑顔の宿泊者たち。
釣り上げたカレイを手に笑顔の人々。
自転車でサロマ湖半の花園向かうシーン。
赤く染まる珊瑚草の中、サロマを歩く旅人。

そして——
一面の流氷に囲まれた冬のオホーツク海。
凍ったサロマ湖を進む、船長のスノーモービル。

「そして、待ちに待った春の到来」

僕たちは数十分でまるでサロマ湖で一年を過ごした壮大な気分になった。
そして、素晴らしい四季の物語に絶対また来ると誓った。

午後9時、ささやかな花火をするという。市販の花火を各々が楽しむという小平と同じスタイルだ。僕は人が楽しんでいる花火を遠目で見るに留めた。

「……え?」

目を上げた瞬間、僕は息をのんだ。

そこには、今まで見たことのない “別世界” が広がっていた。

満天の星空。
そして、夜空に “光の帯” を描く 天の川——。

「こんな……天の川、本当にあったんや……」

これまで”天の川”と言えば、
「星がちょっと集まってるやつ」くらいに思っていた。
でも、違う。

まるで “宇宙そのものが流れている” かのようだった。

その時——
スッ……!

視界の端で “光が流れた”

「えっ!?今の、流れ星……?」

その直後、またひとつ、そしてもうひとつ——。

「すげぇ……!」

僕は、言葉を失った。
後で聞いた話だとこの日「流星ショー」と呼ばれる流れ星の当たり日だった。
僕はみんなが花火をする玄関前を離れて、光のないサロマ湖畔に向かって歩いた。
じっとして夜空を見つめると幾つもの流星が走った。
僕は真っ暗なサロマ湖畔で心ゆくまで星空を楽しんだ。

ジャンボ消える

午後10時、部屋に戻った。
部屋の空気が、異様だった。

「……どうしたん?」

誰も答えない。
ただ、全員が “テレビの画面” に釘付けになっていた。

『日本航空123便が消息を絶ちました——』

僕は、凍りついた。

「6時半ごろ?……え?あの美しい日没と同じ頃、ジャンボが落ちた!?」

さっきまで、みんなで大笑いして、飯をかっ喰らってた。
さっきまで、天の川を見上げて、流れ星に夢中だった。

でも、今。
そこには”別の現実”があった。

『政府関係者によると……』
『まだ、墜落地点は特定されておりません。』
『群馬県・長野県の県境付近で消息を絶った模様……』

「……群馬?」
「何で大阪東京間の飛行機が?そんなとこに?」

誰もが “状況を理解できない” まま、テレビを見ていた。

『アメリカは、ヘリでの捜索支援を申し出ていますが……』
『日本政府は、安全を考慮し、これを拒否——』

「なんで!? 一刻を争うんやろ!?」誰かが怒鳴った。

画面の向こうでは、アナウンサーが静かに言った。

『墜落は、ほぼ間違いないものと思われます』

僕は、ただ、沈黙していた。

さっきまで、笑っていたのに。
さっきまで、流れ星を見ていたのに。
同じ内容を繰り返すニュースが流れるもどかしかい夜が更けて行った。


反省会 16歳の僕と56歳の俺

16歳の僕「船長の宿!何もかも期待以上やった!」

16歳の僕「うん!釣りに夕景。豪華飯にスライドショー。そして流れ星。」

16歳の僕「僕は、夕景見て感動して、星空見上げて『うわぁ!流れ星や!』って喜んでたのに……その頃、あの空で……」

16歳の僕「うん……。あの空気、忘れられへんわ」

  • 「船長の家」に泊まるなら、あなたはどの季節に行ってみたいですか?
  • あなたが旅先で見た「一生忘れられない景色」はどこですか?

コメントでぜひ教えてください!😊

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