旅のタイムカプセル

#30 中村雅俊と警官もどき妖怪、そして小田原の星空(新宿〜小田原)

1985年8月25日 感動学食

午前8時半、起床。

昨夜は1時半か2時ごろに寝たはずだが、目覚めは悪くない。

「今日はしっかり朝食を食べるぞ!」

昨日の朝食は、自販機のぬるいうどん。
だからこそ、今日は”豪勢”に行きたい。

カプセルホテルの人に「安くていいところがあるよ」と教えてもらい、
言われた通りの場所へ向かった。

そこは——大学の学食だった。

「えっ!? 一般人でも入っていいん!?」

……誰にも呼び止められることはなかった。
僕はまばらに座る学生たちに紛れ、堂々と注文。

カレーライス、220円。

恐ろしく安い。

「何だこれ!? 旅の食費、ずっとこんなんだったら最高やん!!」

味も普通にうまい。
調子に乗って、うどんも追加。
天ぷらを乗せても150円。

「……この値段で、このクオリティ!? まるで夢の国や!!」

学生たちは、毎日こんな楽園で飯を食っているのか……!
僕は、旅の手荷物にしたいほどの安さに感動すら覚えた。

せっかくやし、東京見物でもするか!

朝食を食べながら考える。

「さて、今日はどうする?」

旅も残りわずか。
銀行口座の残高はゼロ、持ち金のみ。

だが、昨夜カプセルホテル代を出してもらったことで、気分が少し大きくなっていた。

「せっかく東京まで来たんやし、観光でもするか!」

お上りさん、発動。

僕は自転車にまたがり、東京見物に繰り出した。

代々木公園から渋谷、そして皇居へ!

まずは、山手線沿いを走り代々木公園、渋谷へ。
国道246号線を進み、明治神宮外苑を左手に見ながら皇居へと向かう。

ついに——
皇居到着!!

思わず、口ずさむ。
「I’ve seen the lights go out on Broadway~♪」

前年に日本武道館で観たBILLY JOELの「Miami 2017」
赤い自転車じゃなく、赤いスポーツカーに乗っている気分や!!
道は広く、風が気持ちいい。
僕はそのまま、皇居を反時計回りに一周することにした。
靖国神社を過ぎ、日本武道館を横目に通り抜け、皇居外苑へ。

「これが、東京か……!」

桜田門で記念撮影

一周して、桜田門に到着。

目の前には、堂々とそびえる国会議事堂。

僕は愛車の赤い自転車とともに、写真を撮った。

「俺はついに、ここまで来たんや……!」

東京のど真ん中で、旅の終わりが少しずつ見えてきた気がした——。

中村雅俊

桜田門から桜田通りへ向かおうと、横断歩道で信号待ちをしていた。

「この信号、やたらと長いな……。」

ようやく青に変わり、渡ろうとしたその時——

「自転車の君、ちょっと待って!」

後ろから、突然声が飛んできた。

振り向くと、プロ仕様のカメラと、数人のスタッフらしき人々。
どうやら、撮影中らしい。
スタッフが手のひらを上下に振りながら「そのままそのまま」 と僕にジェスチャー。
つまり——

「動くな」ってこと!?

何が起こっているのか分からず立ち尽くしていると、
僕のすぐ横を、一人の男が横断歩道を渡っていった。

中村雅俊だ!!

僕は一瞬、驚いた。

「えっ、本物やん!!」

『俺たちの旅』『俺たちの祭』『男はつらいよ』……
テレビで何度も見た、あの中村雅俊だ!

でも——
すぐに、僕の驚きは複雑な気持ちへと変わった。

僕以外の歩行者は、みんな普通に横断歩道を渡っている。

渡れないのは、僕だけ。

「え、なんで俺だけ止められてんの?」

信号が赤に変わると、ようやく「O.K. 行っていいよ」とスタッフが合図。

……いやいやいや。

「長い信号待ちの後に、さらに待たされたのに、”ありがとう” も “ごめんね” もないんかい!!!」

モヤモヤしたまま、次の青信号で横断歩道を渡った。

まさかの神対応

そのまま進むと、目の前に警視庁。

そして——

「えっ……また中村雅俊!?」

なんと、渡った先の警視庁前に、さっきの中村雅俊が立っていた。

「……あれ? なんか、こっち見てる?」

次の瞬間、中村雅俊が僕の方に歩いてきた。
そして、申し訳なさそうな顔で——

「悪かったね。」

その一言で、さっきまでの怒りが一瞬で吹っ飛んだ。

「いや、むしろめっちゃいい人やん!!!」

このままじゃ終わるのが惜しい。
せっかくの機会だ。

「あの、僕の自転車と一緒に写真撮ってもらえませんか?」

すると、中村雅俊は**「いいよ! ちょっと待ってね。」** と言い、スタッフを呼んだ。

「おーい、こっち来て! 彼と一緒に撮って!」

やってきた付き人らしき人に、僕はカメラを手渡す。

そして——

「中村雅俊とツーショット!!!」

撮影が終わると、中村雅俊が僕の自転車のハンドルを握り、乗るような格好をしながら聞いてきた。

「君、これでどこ行くの?」

「大阪に帰るところです。」

「うひゃー! 大したもんだ!! どこ行ってたの?」

「北海道の宗谷岬です。」

「おう、本当かよ!? こりゃたまげた!!!」

ドラマで聞くのと同じ、あの中村雅俊の声が目の前で響く。

僕は、そんな状況にたまげていた。

「頑張れよ!」の一言で爽快に出発

すると、スタッフが次の撮影の準備なのか、声をかけてきた。
中村雅俊は僕の肩をポンと叩き、笑顔で言った。

「頑張れよ!」

「ありがとうございます!!!」

僕は爽やかな気分で自転車を走らせた。
信号待ちのせいでイライラしていたけれど、結果として、

  • 憧れの俳優とツーショット撮影
  • 気さくに話しかけてもらえた
  • 旅のことを「すごい!」と褒められた

むしろ、「信号待ちさせられて良かったんちゃう?」 と思えるくらいだった。

「あの時、俺だけ止められてなかったら……この出会いはなかったかもしれない。」

新宿のカオスな夜を抜け、
僕の東京の朝は、なんとも不思議な出会いから始まった——。

東京タワー

「おっ……!」

ビルの谷間から、東京タワーが顔を出した。

最初は、ほんのチラ見え。

だが、進むにつれて、タワーはどんどん大きくなっていく。

まるで、目の前に迫ってくるような感覚。

そして——

ついに、視界いっぱいに東京タワーが広がった!!

自転車を停めて、見上げる。

「でかいなぁ!!!」

初めてじゃない。

でも、改めてこうして下から見上げると、倒れてきそうなくらい高く感じる。

「せっかく東京を自転車で走ってきたんやし……。」

ふと、思った。

「この道を、上から見たらどう見えるんやろ?」

そう思うと、もう登るしかない。

空は快晴。

僕は自転車を停め、大展望台への切符を購入。

エレベーターへ向かうと、すでに長い列。
やはり日曜日ということもあって、人が多い。

約15分待ち。

ついに、エレベーターに乗り込む。

東京を一望! そして、自分の旅を振り返る

大展望台、到着。

目の前に広がる、東京の街並み。

頭上の大きな展望地図で、おおよその位置を確認する。

そして、僕は探した。

「あの道や!!」

今朝、自分が走ったルート。
皇居周辺、桜田門、そして1号線——

上から見下ろすと、まるで地図の上をなぞるように、今までの道がはっきりと見える。

「俺、あそこを走ってたんやな……!」

まるで、自分がミニチュアの街の中を走るフィギュアになったような不思議な感覚。

自分が走った道を、上から眺めるのがこんなに面白いとは思わなかった。

こうして——

僕の東京観光は、空からの絶景とともに幕を閉じた。

警官もどき妖怪

午後1時半、神奈川県に入った。

午前中は東京観光ばかりだったので、少し焦る。
スーパーでパンを買い、走りながら齧る。

「今日中に箱根を越えたい!」

これまでで最も標高の高い峠。
登りきりさえすれば、あとは下るだけ。

午後2時、横浜駅を通過。

駅には寄らず、そのまま走る。
脚が軽い。ペースもいい。

「いける……! このままなら沼津、いや富士まで行けるかも!!」

……そう思った矢先、ルートミス。

勢い余って海沿いの磯子方面に入ってしまった。
気づいてすぐに1号線へ引き返す。

その途中で——

赤信号。

「間違いに早く気づいて良かった。仕切り直しや!」

そう思って信号待ちしていると、目の前にパトカーが停まった。

そして、次の瞬間——

「おい、自転車の君!! ちょっとそこを動くな!!!」

パトカーから3人の制服警官が飛び出してきた!!

そして、僕を完全に取り囲む!!!

「おい!! 名前を聞いてるんだよ!!!」

いきなり怒鳴られる。

驚きすぎて固まる僕。

でも、すぐに異様な雰囲気に気づいた。

「……これ、ヤバいやつや。」

警官の目が……

「人間じゃない! ヤバい吊り目!!!」

これは警察の制服を着た妖怪だ!!

僕は警戒した。

すると、2人の警官もどき妖怪 が、僕の自転車の番号や住所を無線で確認し始めた。

そして——

「この住所、本当の住所か?」

「はい。」

「大阪って、本当に大阪なのか?」

「???」

何を言ってるのか分からない。

「はい……。」

「大体、大阪から何しに自転車で来たんだ?」

大きなお世話すぎる。

「……旅です。」

何か説明しようとしたが、彼らの態度を見て、「このタイプは下手に喋るとヤバい」 と直感。

中村雅俊には話せたことも、こいつらには話す気にならなかった。


「なぜ逃げた?」完全な言いがかり

「ただのサイクリングなら、なぜさっき逃げた?」

警官もどき妖怪の一匹が言う。

「……え?」

聞き返すと、どうやら僕が道を間違えて引き返したことを、「逃げた」と勘違いしたらしい。

「いや、道間違えたから戻っただけやん……。」

「だったら、なんで赤信号で止まってるねん!!!」

心の中でツッコむ。

すると、突然——

「住所と名前を書け!!!」

回覧板みたいな物を渡される。

言われた通り、自転車に書いてある住所をそのまま書く。

すると——

「じゃあ、本当の住所を書いてもらおうか!!!」

???????????????????????

もう、意味が分からない。

「こいつら、完全にバカや……!!!」

結局、彼らは**「家出少年」** か 「盗難自転車」 かのどちらかで僕を連行したかったらしい。

だが、無線の結果——

  • 盗難届番号と一致なし
  • 家出の捜索願なし

完全にシロ。

「じゃあ、今から家に電話するぞ!!!」

脅すように言うが、結局電話はしなかった。

そして——

「高校生くんだりがどうのこうの……。」

「勉強もせんとどうのこうの……。」

「お前らが言うな!!!!」

心の中で叫ぶ。
「お前たちだって、勉強出来んから警官くんだりにしかなれなかったんじゃないのか!」

僕はこの瞬間、誓った。

「絶対に、こんな制服を着た腐った妖怪にはならない。」

昨日のジキルハイドアニキ八戸のエンゼルアニキライダー天使——
本当に困っている時に助けてくれた人たちのことを思い出す。

「あの人たちは雰囲気からして違った、全然違った。」

そしてついに——

「飽きたから、解放。」

3人の警官もどき妖怪は、しばらく嫌がらせのような言葉を続けた後——

「……飽きた。」

そんな顔になった。

「行こうぜ。」

ヤンキーのようなノリで、パトカーに乗って去っていった。

僕は、ただ呆然と見送った。

「何だったんや、今の時間……。」

やっぱり妖怪だ。頭が悪すぎる。

怒りと呆れを抱えながら、再びペダルを踏み込んだ——。

小田原

午後3時半、解放。

怒りと呆れを抱えながら、僕はペダルを踏んだ。

「こんなことで時間を無駄にしてる場合じゃない。」

約60km先の小田原を目指して、ただひたすら走った。

途中、警官もどき妖怪のことを思い出してはムカつき、
中村雅俊の「頑張れよ!」の声を思い出しては前を向いた。

「とにかく……今日は色々ありすぎた。」

小田原に着いたのは午後7時。

もう、すっかり日は落ちていた。

見上げると、空には星。

今朝は学食で腹一杯食べて、昼間は、東京のビル群の中を走っていた。
そして中村雅俊にあったのだ。
午後は一転、横浜で妖怪に絡まれた。

小田原駅のトイレで濡らしたタオルで身体を拭く。
妖気を落とすように。
サッパリするとマットを敷き、寝袋に入った。

この静かな小田原の夜が、なんとも心地よかった。

反省会 16歳の僕と56歳の俺


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