旅のタイムカプセル

#31 限界突破! 箱根の鬼坂&地獄便所&衝突事故(小田原〜静岡)

1985年8月26日 200円の寸劇

国道1号線、最高地点874メートルを誇る箱根峠。

「いよいよ、この旅最大の難所や……。」

そう思うと、朝から少し緊張していた。

そんな時、出来立ての焼きそばを売る店 を発見。
おにぎりと一緒に買った。

「峠に差し掛かってから食べようか……。」

そう考えて走り出したが——

「いや、アカン!!!」

焼きそばに風が当たり、みるみる冷めていくのを見て即決で停車。

「焼きそばは温かいうちに食うべし!!」

バス停の向かいにある石垣に腰掛け、焼きそばとおにぎりを頬張る。

「う、うまい……!!」

昨日の粗末な夕食を思い出し、感動すら覚えた。
そんな時——

「すいませんねぇ……。ヒンヒン」

ゾワッ

突如、背後からか細い声 がした。

振り向くと——

ヨタヨタと歩く、一人の老人。

髪は異様なまでに固まった白い束。
ボロボロの衣服。

「これは……完全にヤバいやつや……!!!」

一目見て分かった。

ホームレスや!

200円の理由

逃げたかった。

でも、食べてる途中なので動けない。

すると貧乏神は、弱々しいながらも、ハッキリとした口調で言った。

ヒンヒンお金を落としてしまって、ヒンヒン帰りたくてもバス賃がなくて帰れないのですよ。ヒンヒン

……完全に嘘やん。

淀んだ目を見た瞬間、さらに確信した。

「やっぱり、人間じゃない……!!!」

でも、話の流れ的に、いちおう聞いておく。

「……いくらかかるの?」

すると、貧乏神は、ためらうことなく即答。

ヒンヒン200円。ヒンヒン

……絶妙すぎる!!!

500円なら断られる。
100円では食事には足りない。

200円……最適な金額!!!

この金額に、何年もの研究の成果 が詰まっている気がした。

謎のサングラス授与

僕はこれまで親切にしてくれた人々 のことを思い出し、

「ここは200円くらい渡すか……。」

そう決めた。

小銭入れから200円を取り出し、貧乏神の手に触れないように 渡す。

すると、貧乏神は言った。

「礼をしたいが、何もないけど……。ヒンヒン

と言いながら——

ボロボロのサングラスを差し出した。

ヒンヒンどうぞ。」

ツルが折れている。

完全に使い物にならない。

だが、その渡し方は、まるで——

「これは俺の全財産だ……。」

そんな誇りを感じさせる、“授与式” のような動きだった。

貧乏神のビジネスモデル

僕は一瞬考えた。

「もしかして、この貧乏神……長年、この手法を極めてきたのでは?」

・金額は絶妙な「200円」
・渡すものは「価値ゼロのサングラス」

この200円の寸劇を繰り返し、もしかしたら総額数万円、いや、もっと稼いでいるかもしれない……!!

そう考えたら——

「いや、関わりたくねぇ……!!!」

僕は手のひらを貧乏神に向けて、「要らない要らない」とジェスチャー。

ヒンヒン……おぉ、おぉ……。ヒンヒン

貧乏神は、少し寂しそうにサングラスを引っ込めた。

僕は残りの焼きそばを素早く食べ、即撤退。

こうして、200円の寸劇は幕を閉じた——。

箱根峠

箱根湯本——

ここは、箱根の表玄関。

温泉宿が立ち並び、土産物屋からは焼きたての煎餅の香りが漂う。
観光客が楽しそうに歩き、早川沿いの旅館の灯りが風情を醸し出している。

「こんなところで一泊できたら、最高やろうな……。」

ちらっと土産物屋を覗いたが、当然買う余裕はない。

「オヤツを買うなら、腹の足しになるものだけ。」

そう考えて、店の前を素通りした。

しかし——

この華やかな雰囲気も、ここまでだった。

箱根、牙をむく

「塔ノ沢」に近づくと、急激に勾配が増していく。

「なんやこれ……!!」

同じ800メートル級の中山峠とは違う。
箱根は、わずか14キロの距離で一気に駆け上がる峠。

つまり、「勾配がエグい。」

「これは……乗ったままじゃ無理や……!!」

ついに自転車を降り、押して歩く。

それがまた——

「クッソ重い!!」

自転車の車重+荷物の重さ。
ただでさえキツい坂道を、さらに負荷をかけて歩く苦行。

たまらず、大平台駅で休憩。

駅周辺には住宅や店も多く、小さな町のようになっていた。

「ここで育つ子供、足腰めっちゃ鍛えられるやろな……。」

そんな余計なことを考えながら、水をゴクゴク飲む。

だが、飲んだ水がそのまま汗になって出ていく。

全然、体温が下がらない。

「ポカリの誘惑」→「腹痛の地獄」

「宮ノ下駅」に着いた時、ついに我慢できなくなった。

「これはもう……ポカリや!!!」

本当は節約したかった。

でも、冷えたポカリスエットの魅力には勝てなかった。

「キンキンに冷えたポカリ……これ以上のご褒美はない!!!」

ゴクッ、ゴクッ——

「う、うまい……!!!」

口の中に広がる、ほんのりした塩気。
染み渡るような甘さ。

疲れ切った体が、ポカリを求めていた。

しかし——

その幸福は、たった数分で終わる。

「あっ……やばい……!!!!」

キンキンに冷えたポカリが、胃腸を直撃。

猛烈な腹痛が襲いかかる。

「こんなに早くお腹壊れる!?」

関心している場合じゃない。

ダッシュで便所に駆け込む。

その後、完全にげっそり。

でも、止まるわけにはいかなかった。

「箱根峠、意外といける!?」

小涌谷を過ぎると、駅もなくなり、町の気配が消えた。

「ここでまた腹痛になったら終わる……!!」

恐怖を感じながらも、ひたすら前へ進む。

急勾配では歩き、
なだらかになったら自転車に乗る。

これを繰り返すこと数時間——

「ん? もうすぐ終わるんちゃうか?」

確かにキツい。

でも、これまでの旅を振り返ると——

「いや、三陸のアップダウンの方が、100倍キツかったわ。」

三日連続で延々と繰り返された地獄のアップダウン。

それを思えば、箱根峠は『終わりが見えている分、マシ』 だった。

「箱根の上り坂も、いつかは下る。」

そう思った瞬間——

体の奥から、じわっと力が湧いてきた。

ついに、箱根峠、制覇!

ついに——

国道1号線の最高地点 に到着!!

「終わった……!!! ついに登り切った!!!」

まだ少し坂道は続くが、
もうあの急勾配はない。

あとは下るだけ。

「よし……行くか!!!」

約4時間の格闘を終え、元箱根到着。

箱根峠の残り坂

目の前に芦ノ湖が広がっていた。

湖面に浮かぶ遊覧船。
湖畔に並ぶ観光案内板。
箱根園や樹木園の看板。

「ついに……ついに峠を越えたんや……!!」

だが、僕の目下の問題は、そんなことよりも——

「腹が減った!!!」

ラーメンと危機一髪

空腹だったが、さっきポカリで腹を下したばかり。

ガッツリ食べるのは避け、ラーメンを選択。

熱々のスープをすすり、麺をすする。

「あぁ……あったまる……!!」

だが——

「う、眠い!!!」

とてつもない眠気が襲ってきた。

目を閉じそうになるたび、ラーメンの丼に顔が近づく。

「ヤバい……このままだと顔面ラーメンになる!!!」

必死にこらえ、何とか完食。

寄木細工の誘惑

食後、土産物屋をぶらついていると、「箱根寄木細工」の美しい箱が目に入った。

「おばあちゃん、こういうの好きそうやな……。」

ふと、買ってあげたい気持ちがよぎる。

すると、店員が箱を何度か押したり引いたりして開ける様子を見せてくれた。

「ほう……これが秘密箱ってやつか。」

仕掛けが分からないと、開けられない。

シンプルなものは数回で開くが、複雑なものは30回以上の手順が必要。

「いや、これ、おばあちゃんに渡したら、一生開けられへんやつやん。」

しかも、もし開け方を覚えても——

「次の日には忘れてる可能性大!!!」

これは、プレゼントするにはハードルが高すぎる。

値段を聞くと——

「4000円です。」

「僕の全財産と完全一致!!!!」

驚きのあまり、即退散。

「これで下るだけ!」のはずが……

たっぷり休憩し、腹も落ち着いたので、午後4時、元箱根を出発。

「よし、ここからは下りや!!!」

箱根駅伝の往路ゴールでもある元箱根。
つまり、ここが峠越えの終着点!!

今までの苦労を思い出しながら、芦ノ湖沿いを爽快に走る。

そして、ついに下り坂!!!

「よっしゃぁぁぁ!!!!!」

ペダルを踏む足も軽い。
優しい風が頬を撫でる。

「これや! これを待ってたんや!!」

もう登りはない。
あとは下るだけ。

そう思った、その瞬間——

「……え?」

目の前に現れたのは——

「とんでもない上り坂。」

しかも、これまでの坂を超えるレベルの急勾配。

「何これ!? 嘘やろ!?」

あまりの衝撃に、一瞬、時間が止まった。

箱根駅伝往路のゴールである元箱根。
なので箱根の山越えは元箱根から下って行くものと勝手に思っていた。
長い休憩を取って体力も回復。
僕は意気揚々と走り出した。芦ノ湖沿いを走っているとすぐに下り坂にやってきた。
これまで大変な思いで登って来た箱根峠。ついに爽やかに豪快に下っていくのだ。
グォーんと優しい気持ちで滑るように走る私の目に信じられない光景が飛び込んできた。
これまで下ってきた以上の上り坂が迫って来たのである。
「何これ?」
僕は自分の目を疑った。しかし目の前に立ちはだかる坂。そ
れもこれまでの集大成のようなえげつない坂。坂。坂。
芦の湯辺りで国道1号線最高地点て書いてあったやん!
箱根の山越え、元箱根がゴールやったやん!
箱根峠はここでおしまい、お疲れ様でした!感出してくれてたやん!

僕はそれを鵜呑みにして、もう終わりと思っていた。
しかし目の前に強烈な坂道。これには流石に参った。
2キロ弱の強烈な坂に歩くしかなかった。
元箱根を出てから箱根峠までの約5キロに30分も掛かった。

「箱根峠、終わってなかった問題」

さっき通過した芦の湯で、「国道1号線最高地点」 って書いてあったよな?

「箱根の山越え、お疲れ様でした!」 的な空気を醸し出してたよな?

「完全に終わった感、出してたやん!!!!」

それが——

「ここに来て、この鬼坂!?」

「ふざけんな箱根!! 何でラストにトドメ刺してくんねん!!!」

もう、笑うしかなかった。

しかし、この坂——

歩くしかなかった。

坂の長さは約2キロ。
元箱根を出発してから、箱根峠まで約5キロに30分もかかった。

「もうこれ、完全にトラップやん……。」

走れるまで走る

箱根峠を越えたその瞬間——

「静岡県突入!!!」

午後4時半。

峠越えの達成感とともに、静岡の空気を胸いっぱいに吸い込む。

「ついにここまで来た……!!」

だが、安堵した途端——

ズシッ。

一気に疲れが押し寄せた。

「あかん、気ぃ抜いたら一気にバテる!!」

しかし——

下りのスピードに乗るうち、体力が徐々に回復していく。

ペダルを踏み込むたび、疲労が吹き飛んでいくような感覚。

「……まだ行ける!!!」

「宿題」 という名の現実

実はここ数日、ずっと考えていたことがある。

それは——

「宿題、1ミリもやってない……!!!」

8月26日。

夏休みは、あと5日。
大阪までの残り400キロ超。

「このペースなら、あと3日はかかる……。」

つまり、帰宅予定は8月29日。

で、その後に膨大な宿題が待っている。

……いや、もう観光とか言ってる場合じゃない!!

僕の旅は、完全に——

「無事帰るクエスト」 に変わっていた。

そしてこのクエストには、さらに最終ミッションがある。

「残り2日で宿題を全部終わらせろ!!!」

完全に詰んでる。

ならば……

「徹夜で大阪まで走り続けるしかない!!!!!」

日没への焦り

「宿題」という名の現実が頭をよぎり、僕は沼津駅に立ち寄ることなく走り続けた。

しかし、午後5時半を過ぎると——

「何か、空の様子がおかしい……?」

雨ではない。

だが、濃い霧 が立ち込め、あたりが不気味に暗くなる。

まるで、夜が一足早くやってきたかのような雰囲気。

右手には雲に覆われた大きな山。
「愛鷹山 1188メートル」の看板。

さらに、「この先、富士山絶景ポイント!」 の案内板もあったが——

「見えるわけないやん……!!!」

しかし、この曇天も悪くない。

「涼しくて走りやすい!!」

さっきまでの暑さが和らぎ、ペダルを踏む足が軽くなる。

「この調子で、どこまで行けるかやな……!!!」

そう思った、その時——

「……あっ。」

地獄便所、降臨

突然——

突き刺さるような激痛が、腹に襲いかかる。

「な、なんで今やねん!!!」

あれだけ安定していたのに、まさかのタイミングで再発。

しかも、今度の痛みはレベルが違う。

「これはヤバい!!! 便所!! 便所どこや!!!」

焦りながらも、必死で走る。

だが、周囲は民家ばかり。

公園も、コンビニも、何もない。

「頼む!! どこかにトイレ……!!!」

その時——

「東田子の浦駅」 の看板が目に入った。

「駅ならあるやろ!!!」

祈るような気持ちで駆け込むと——

あった!!!!

便所発見!!!

ドアを開け、飛び込もうとした、その瞬間——

ズドン!!!

強烈な”何か”が、僕の体を押し返した。

それは、ただの臭いではなかった。

「な、何やこれ……!!?」

鼻腔が一瞬で破壊される。

目が焼けるように痛い。

そして、肺が……!!?

「この空気、まともに吸ったらアカンやつや!!!」

異世界のトイレ

それは、まるで**「異世界の瘴気」** のようだった。

「ここ、火をつけたら爆発するんちゃうか?」

トイレの中は、完全に”見えない毒ガス”で充満していた。

「10分閉じこもったら、メタン中毒で死ぬ……!!!」

この世のものとは思えない異臭。

「鼻が曲がる」とか、そういうレベルじゃない!!

ここに踏み込んだら——

「確実に、死ぬ!!!」

「いや、でももう限界や!!! どうする!?!?」

本能が叫ぶ。

「……無理!!!!!」

無意識のうちに、僕は全速力でトイレを脱出。

何とか”毒ガスエリア”から抜け出し、呼吸を整えようとしたが——

「……え? 頭、クラクラする……!!?」

酸欠?
中毒症状?

しばらくの間、頭がボーッとして、気分が悪くなった。

生まれて初めて、そして——

恐らく一生、これほどの地獄便所には遭遇しないだろう。

僕は呆然としたまま、自転車にまたがった——。

限界

午後7時、富士駅到着。

すっかり日は落ち、駅前の街灯だけが頼りの暗闇。

「とりあえず駅舎に入ろう。」

そう思い、ペダルを踏み込んだ、その瞬間——

ガシャァァァン!!!

「……!!??」

目の前の景色が、一瞬で逆さまになった。

次の瞬間——

ドンッ!!!!!!!

衝撃。

自転車ごと、前のめりに吹っ飛ぶ。

「えっ!? 何!?」

何が起こったのか、一瞬わからなかった。

しかし、すぐに状況を把握。

「……チェーン!!?」

車両の進入を防ぐためにポールとチェーンが張られていた。

しかし、暗くて気づかなかった僕は——

全速力で突っ込んでしまったのだ。

「ヤバい、痛すぎる……!!!」

「……っっ!!!」

うずくまったまま、激痛に耐える。

倒れた自転車のハンドルが脛(すね)に直撃。

「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

痛みがジンジンと広がる。

涙が出そうなほど痛い。

だが、それ以上に——

「めちゃくちゃ恥ずかしい……!!!」

周囲には、まばらに人がいる。

みんな、こちらを見ている気がする。

「ヤバい、早く立たな……!!!」

僕は痛みを堪え、脚を引きずりながら立ち上がる。

自転車を起こし、すぐに確認。

前後に動かしてみる。

「……壊れてはいないっぽい。」

でも、脚は痛い。

そして——

事故のショックで、食欲も完全に吹き飛んでいた。

「もういいや、行こう……。」

僕は無言で、富士駅を後にした。

空腹 vs 体調不良

真っ暗な国道1号線を走る。

ペダルを踏むたびに、ジンジンと脛が痛む。

それでも、時間が経つにつれて、痛みは和らいでいった。

「よし、あと少し……。」

午後9時、清水駅到着。

気づけば、腹が減っていた。

しかし、食べる気になれない。

腹痛の恐怖が、まだ脳裏に焼き付いている。

「食べたらまた腹壊すかも……。」

でも、このままじゃ走れない。

「……食べるしかないな。」

僕は食堂に入り、親子丼とうどんを注文。

一口食べる。

「……うまい。」

じんわりと胃に染み込んでいく感覚。
お腹よしっかり消化してくれ!
私は祈りながら完食した。

静岡駅、そして”限界”

午後10時20分、静岡駅到着。

もう、何も考えられない。

駅舎の横に自転車を停め、マットを敷く。

寝袋に潜り込むと——

次の瞬間、意識が途切れた。

反省会 16歳の僕と56歳の俺


  • 「あなたが経験した”最強にヤバいトイレ”は?」
    → 臭い、汚い以外でも驚きのトイレがあったら教えてください!
  • 「あなたが”もう限界だ!”と感じた瞬間は?」
    → あなたの限界エピソード をコメントで聞かせてください!

コメントでぜひ教えてください!😊

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA