1985年7月30日 爽やかな松原の朝
昨夜は8時に布団へ入り、目覚めたのは朝6時。
10時間、一度も目を覚ますことなく眠り続けた。
これはもう、昨日の**「風呂の浄化効果」**としか思えない。
体の表面にまとわりついていた「カサカサ吐息」も、すっかり消え去った。
起き上がると、体調は万全。
昨日の疲れも嘘のように消えていた。
そして、カーテンを開けた瞬間——
「うわ……景色、めっちゃええやん……!」
昨日、到着した時はとにかく疲れ果てていて、周囲の景色をまったく見る余裕がなかった。
しかし、改めて見渡すと、想像以上に素晴らしい場所だった。
空気が澄んでいる。
海風がひんやりと心地よい。
松林が太陽の光を適度に遮り、涼しさを演出している。
壁に貼られた手書きのチラシを見ると、
「古志の松原——日本五大松原のひとつ」
なるほど。
どうりで、これまで走ってきたどの場所よりも空気が美味しいわけだ。
松原の隙間から見える海、浜辺に打ち寄せる波。
それを眺めながら食べる朝食は、まさに**「旅の朝」**という感じがした。
(こういう時間をもっと味わいたいな……)
そんなことを思いながら、僕は静かに食事を終えた。
身軽になってスピードアップ!
午前7時20分、富山ユース出発。
昨日、福井のユースで一緒だったサイクリスト青年の姿はもうなかった。
どうやら彼は僕よりも先に出発したらしい。
ひとまず、僕も今日の行程をスタートさせる。
8時ごろ——大決断。
「やっぱり、これはもう要らんわ……」
僕は、持ってきた飯盒や調理器具、テントなどの重い荷物を自宅に送り返すことにした。
3日間走ってみて分かったこと。
「このペースで自炊なんて無理!」
疲れ果てて走っているのに、
テント張って飯を炊くなんて、そんな余裕はどこにもない。
「野宿するにしても、寝袋とマットさえあれば十分や!」
そう判断して、余計な荷物をどんどん排除。
これが大正解だった。
荷物が数キロ減っただけで、驚くほどペダルが軽い。
リュックの重さも減って、走りやすい。
(これなら、妖怪や鬼が襲ってきても逃げやすいぞ……!)
自転車旅は、「持ち物との戦い」でもある。
旅の最初から完璧な装備なんて無理。
**「走りながら、要るもの・要らないものを見極めていく」**のも大事なのだ。
「日本地図が縮む感覚」
9時過ぎ、黒部市に到着。
去年の高校の林間学習でここへ来た時は、
「大阪からめっちゃ遠い!」と感じていた。
でも、いざ自転車で走ってくると——
(遠いのか近いのか、よく分からんな……)
「日本って、こんなに小さかったっけ?」
自分の足で進むことで、地図のスケール感がどんどん変わっていく。
これは、自力で移動する自転車旅で培われる感覚か?
なんだか、自分の中の距離感が崩壊していくような感覚。
日本地図が小さくなりつつある感覚だ。
(次ページ:「迫り来る怨霊トラック」へ続く……!)