旅のタイムカプセル

#4 親不知子不知を越えてお寺のユース (富山〜柿崎)

ユースホステル探し 〜 そして「るらっ!」の衝撃

さて、今夜の宿を決めなければならない。
僕は地図を確認し、40キロ先の柏崎を目指すことにした。
事前に公衆電話を探し、「柏崎ユースホステル」に電話をかける。

結果——

「もう満室です」
(やっぱり……!)

柏崎は、新潟屈指の海水浴スポット。
夏休み期間中のこの時期、ユースホステルもすぐに埋まってしまうのだろう。

「どうする……?」

焦る気持ちを抑えつつ、地図を見直す。
(少し手前に「妙智寺ユースホステル」ってのがあるな)

「お寺のユース……? なんか珍しいな……」

試しに電話をかけてみると、
女性が出て、ぶっきらぼうな声で一言——

「空き、あるよ」
(おぉ! 助かった!)

「じゃあ、これから向かいます!」と伝えると、

「夕食は6時半でするらっ!」

「……え?」

そのまま電話が切れた。
(……な、何て?)

僕は受話器を持ったまま、しばらく固まっていた。

「……るらっ?」
「……するらっ!??」

何だその語尾は!?

新潟の方言なのか、それともただの言い間違いか?
とにかく、何か強烈な圧を感じる言葉だった。

(しかも、6時半までに着かないと飯なし……の警告?)

妙に嫌な予感がする。
僕は急いでペダルを踏み出した。

「地図が不親切すぎる問題」

上越から柏崎へ向かう道は、地図上では走りやすそうに見えた。
が、実際は50メートル級のアップダウンが連続。

「こんなの聞いてないぞ……!」

夕方になり、疲労がピークに達していた僕にとって、
この道はまさに**「心を削る峠地獄」**だった。

さらに、最大の問題が発生する。

ユースホステルの場所が分からない。

地図には簡単なマークしかない。
「国道8号線」「タバコ屋」「ココ」

いやいや、情報少なすぎるだろ!!

「知ってる人向けの地図」じゃなくて、「初めて来る人向けの地図」にしてくれ!!
(こんな不親切な地図じゃ分かるわけない!)

公衆電話を探して聞こうと思ったが、電話ボックスが全然見当たらない。

「……もしかして、あの予約電話の相手、
『6時半までに間に合わないだろう』って笑ってるんじゃないか?」

急にそんな考えがよぎる。
(まったく……! もう、焦る!!)

ついに道を間違える

結局、道が分からず、右往左往。

ウロウロと迷い続け、ようやく人を見つけた。

「あの……すみません、妙智寺ユースホステルってどこにありますか?」

「あぁ……それなら、行き過ぎてるよ」

「……え?」

まさかの通り過ぎていたパターン!!
僕はガックリと肩を落としながら、
再びペダルを踏み直した——。

「妙智寺ユースホステルの怪 〜 るらっるらっ女と供養の晩餐」

午後6時50分、ようやく「妙智寺ユースホステル」に到着。

名前の通り、お寺が運営しているユースホステルだ。
普通の宿とは違い、玄関の代わりに広がるのは厳かな石畳。
その奥には、広い砂利敷きの境内——

そこに停められた、十数台のバイク。
「これ……全部、ユースの宿泊者のもの?」

バイクが並ぶ光景は、どこか異様だった。
まるで**「バイク教の集会」**が開かれているような雰囲気すらある。
(みんなでバイク経を唱える、、、いや、違うよな……まさかな……)

汗を拭いながら、自転車を停める。
そして、チェックインのために受付へ。

「夕食が6時半からでするらっ!」

また出た! 「るらっ!」

電話で言われた謎の言葉を、またも聞くことになるとは……。
しかも、妙にせき立てるような言い方だ。
(え? もう6時50分だけど……まだ食べられるよな?)

半ば強制的に、僕は食堂へと案内された。

夕食の違和感 〜 そして「るらっるらっ女」の出現

食堂に入った瞬間——
(……暗い!?)

そこは、なぜか妙に薄暗い食堂だった。
いや、照明があるにはあるのだが、どう見ても光量が足りていない。
(節電……? いや、お寺だから厳かにしてるのか?)

ふと天井を見ると、本来入っているべき蛍光灯が、はじめから抜かれている。
(なるほど……これが「デフォルトの暗さ」ってわけか……)

すでにほとんどの宿泊者が食事を終えている。
僕と、同じく遅れて到着したライダーだけが、食堂の隅に案内された。
用意されていたのは、「余り物感」漂う夕食。
食べ始めると、目の前に一人の若い女性がスッと現れた。

そして——
「早く食べて、ほらっほらっ!」

せき立てるように声をかけてくる。
(えっ……!? 何? なんでそんなに急かすの?)

女性は、小刻みにテーブルを揺らしながら、
「ほらっ、ほらっ!」を繰り返す。
だが、次第に
「るらっ、るらっ!」と、巻き舌になっていく
(……!!)
そう、僕は気づいた。

「電話の女性はコイツだ!!」

「るらっ! るらっ!」と発していたのはこの女…… **「るらっるらっ女」**だったのだ!!思わず顔を見上げる。
目が、完全に逝ってる。
だけじゃない。
さっきから、このるらっるらっ女、一回も瞬きをしていない。
(ヤバい……コイツ、人間じゃない……!!)

お寺ユースのるらっるらっ女

出現場所 妙智寺ユース
属性・・・妖怪
口癖「るらっるらっ……るらっるらっ……」
繰り返す謎の呪文で旅人の精神を乱す
特技・・・同じテンポで声掛け、全員同時行動

供養される食事!? るらっるらっ女たちの奇妙な動き

箸を持つ手が止まった。

「なんか、喉を通らない……」

僕は食いしん坊だ。
いつもなら茶碗3杯、4杯、場合によっては5杯以上おかわりする。
でも、この時は——

ご飯が全然喉を通らなかった。
(なんだ……この圧……)

ライダーも同じらしく、視線が落ち着かない。
ちらっと横を見ると、おかわり用のご飯を、別の「るらっるらっ女」が片付けている。
(えっ、もう片付けるの!? まだ食べ始めて5分なんだけど!?)

厨房の奥からは、妙な音が聞こえてくる。
もう食器を洗っているのか!

ガチャガチャガチャ……チーン……
ポクポクポクポク……チーン……
(このリズム……)

そうだ、まるで**「木魚」と「おりん」の音」**じゃないか!?

……まさか。
……いや、考えたくないけど。

「これ、俺たち……供養されてるんじゃないか?」

ライダーが小声で呟いた。
その瞬間——

「るらっるらっ女」たちの動きが、一斉に止まった。
「…………。」
(……!!)

やばい。
僕はすぐに、聞こえないフリをして、何事もなかったかのように食べるフリをした。
……すると、「るらっるらっ女」たちは、また何事もなかったかのように動き出した。
(……やっぱり変だ!!)

るらっるらっ女の呪縛からの脱出

もはや、食欲どころの話ではない。

「ヤバい……」

ライダーも、もうご飯を食べる気が失せている様子。
(時間通りに到着できなかった僕たちが悪いのかもしれないけど……
それにしても、この食事のプレッシャーは異常だ!!)

僕はそっと箸を置いた。
すると——

「るらっ!」

るらっるらっ女のひとりが、にっこりと微笑み、
食器を一瞬のうちに片付けた。
まるで、僕たちが食べ終わるのを待っていたかのように。
(……これ、やっぱり「てらっ」じゃなくて「るらっ」だったんじゃないのか……?)

ゾワッと鳥肌が立つ。

お寺のユースならではの「お勤めのような儀式」と「厳かさ」——
その向こうに、僕は「何か得体の知れないもの」を感じていた。

妖怪の呪縛からの解放……お茶を一杯。

「るらっるらっ女」の圧が強すぎたせいか、
夕食を終えて部屋に戻った瞬間——

全身の力が抜けた。
「はぁー……」
ライダーも同じ気持ちだったのか、大きく息をつく。
僕たちは何も言わずに、お茶を淹れた。
飲み物の温かさが、さっきまでの緊張をほどいてくれる。

ここはお寺が運営するユースホステル。
個室ではなく、大広間に仕切りをつけてみんなで雑魚寝をするタイプの宿だった。

部屋を見渡すと、見覚えのある顔があった。
「あっ!」
福井、富山で同じ宿だったサイクリストだ。

僕の顔を見るなり、彼はまたも驚いた顔をした。

「君……あの自転車で、今日のルートをよくこんな早いペースで走れるねぇ……!」

何度も顔を合わせているせいか、彼はすっかり僕の相棒(ミニサイクル)のことを気にしているようだった。

僕は少し悩んだが、ついに**「本当の目的地」**を彼に伝えることにした。

「……実は、東北までじゃなくて、宗谷岬まで行くつもりなんだ。」

彼は目を丸くした後——

「すごい!!!」

と大きな声を上げた。
すると、その声を聞きつけた他のライダーたちが、**「何々??」**と話に加わってきた。

僕のミニサイクル、大注目される

「へぇー! そんな自転車で北海道まで?」
「すごいな、俺たちでもキツいのに!」

僕の相棒、**変速機なしのお買い物自転車(ミニサイクル)**に、ライダーたちは興味津々だった。サイクリストの彼が、みんなに説明する。

「福井で同部屋になって、それから富山でも会ったんだよ。彼はロードバイクじゃなくて、あの自転車で走ってるんだよ!」

「え、マジ!? ちょっと見に行こうぜ!」

そう言うと、ライダーたちは全員で僕のミニサイクルを見に行くことに。
僕の愛車を囲みながら、みんなが口々に感想を漏らす。

「これは……すごいな、逆に尊敬するわ……」
「荷物の積み方も工夫してるな〜」
「もう……お前が優勝でいいよ!!!」

みんな爆笑しながら、僕を激励してくれた。

旅人の情報交換 〜 そして「船長の家」

夕食時に一緒だったライダーのひとりが、北海道を回ってきたばかりだという。

「お前、北海道行くなら、ここは絶対行ったほうがいいぞ!!!」

彼が特に熱く語ったのが——

「サロマ湖の船長の家」 という宿だった。

「船長の家?」
「もうな、飯がヤバい!! 夕食で12品、いや13品は出る! 食いきれんほど出るんだ!!」
「マジか!!!」

僕は思わず食いついた。

「今日の夕飯の何十倍も豪華だぞ!!!」
「それ最高やん!!!」
「るらっるらっ女の仇を取れる!!!」

旅人たちは大笑い。
そして、彼はなんと——

「船長の家」の割引券をくれた。

僕はその紙を、まるで**「旅のお守り」**のように両手で受け取った。

「ありがとう!!! 絶対行くわ!!!」

僕の心はすでに北海道を半周し、サロマ湖まで飛んでいった。

笑いと、お清めの湯

夕食は「るらっるらっ女」のせいで散々だったが、
ライダーたちとの交流は最高だった。

不思議なことに、お寺のユースには「妖怪」と「仏の加護」の両方が混在している気がした。

道が分かりにくく、アクセスが悪い場所にあるユースほど、
そこで出会う旅人たちは個性的で、面白い人が多い。

彼らは社会のレールから外れかけているようで、
どこか人懐っこく、人生を楽しんでいるようにも見えた。

(こういう出会いがあるから、旅は面白いんだよなぁ……)

しみじみとそう思いながら、風呂に向かった。

——が、そこで衝撃の事実に気づく。

(あれ? 風呂道具がない……?)

朧げに浮かぶ昨夜の富山ユースの脱衣所……。

(まさか……)

「あっっっ!!! 俺、富山ユースに下着とタオル入れた袋、忘れてきてるやん!!!」

「お清めの力」、恐るべし。

僕は頭が真っ白になり、身体も浄化されたと思っていたが、
まさか**「汚れたパンツとタオル」まで置いてきてしまうとは……!

「パンツロスト事件」と風呂場での笑い

パンツを1枚ロストした。

これは痛い。

何処かで新しく買わなければならない。
つまり、予定外の出費が確定。

だが——

「パンツ忘れてきたとか、マジでアホすぎるやろ!!!」

自分でツッコミを入れながら、何度も笑ってしまう。
風呂に入りながら、
さっきの旅人たちとの笑い話を思い出し、
僕は一人でゲラゲラ笑いながら湯船に浸かった。

「もう、今日のことは全部ネタにしよう……!!!」

風呂から上がると、仲間に**「洗濯機が無料で使える」**ことを教えてもらい、
さっそく洗濯を開始。

そこでふと、お尻の痛みに気づいた。

肛門のあたりがヒリヒリする……!

昼間は日焼けの痛みで腕や脚が痛かったが、
座り続けていたお尻にもダメージが蓄積されていたのだ。

(これはヤバい……)

「そうだ! オロナイン!!!」

昼間、日焼けした肌に塗って効果があったオロナイン。

もしかしたら、お尻にも効くのでは!?

試しに塗ってみると——

「あれ? なんか楽になった!!!」

オロナイン、最強すぎる。

こうして4日目の夜、僕はお尻のケアをしつつ、静かに眠りについたのだった。

明るい交流

慌てて僕らは部屋に戻りお茶を飲む事にする。
部屋に戻った瞬間、張り詰めていた緊張が一気にほどけた。
部屋といってもお寺が運営しているユースだ。
大きな部屋でみんな雑魚寝をする、そんな感じだ。
部屋はいくつかあって、仕切りは襖や病院にあるようなパーテーション。
部屋を見回すと見覚えのある顔があった。
福井、富山で一緒になったサイクリストだ。
2度あることは3度ある。そのサイクリストはまたまたびっくりした顔で、
「あの自転車で今日のルートをよくこんな早いペースで走れるねぇ」と関心の様子。
「しかし、東北までならもっとゆっくりで良いんじゃない?」
「自信の無さから東北と言っていたけど、実は宗谷岬まで行くのだ。」と僕は彼に告げた。
すると笑われるかもと思っていたサイクリストは「すごい!」と言い、
その大きな声に他のライダーたちも「何々?」と話に加わってきた。

サイクリストが福井で同部屋になって、その後富山でも会って、今日はこのユースでも。
僕はレースタイプの自転車だけど、彼はこんな自転車で走ってるんだ、と僕の事を説明し、
「僕のミニサイクルを見に行こう!」という事になった。
そこで皆んなようやく笑って、激励してくれた。
一緒にせき立てながら夕食を食べたライダーは。千葉から北海道を回ってきたということで、北海道の情報、特に泊まると良い安宿を丁寧に教えてくれた。
その中でもサロマ湖の「船長の家」とい宿の素晴らしさを熱く語った。
「夕食は今日の夕食の何十倍も凄くて、おかずなんか12品、いや13品は出るんだ!
もう食べきれないほど、今日の仇を取れるよ!」と「船長の家」の割引券をくれた。
船長の顔を想像してみる。絶対妖怪ではないと思った。船長は旅人の守り神だ。
僕の心は北海道を半周してサロマ湖まで飛んでいくようだった。

夕食は妖怪「るらっるらっ女」のせいで残念だったが、お寺のユースいいものである。
妖怪の要素とお寺のせいか仏に守られている両方の面が鎬を削っている感じがした。
また、お寺という事で奥まった場所に位置し、非常に道が迷いやすく、市街地から離れている。だからその分、宿泊している客層がコアなのだ。
これまでの16歳の人生ではあったが、比較的旅好きの僕は色んな所に行った。
九州や四国などである。
ただ公共交通機関で行く事が多かったので、出会う客はグループが多い。
しかし前年のローラースケートの旅で意外な気付きがあった。
公共交通機関から離れた場所の宿は宿主も客も一風変わっているという点だ。
その思いがこの日確信になった。

昨日の富山ユースも駅からかなり離れていたので宿泊者はバイクや自転車、中には徒歩の旅人もいた。
このように便利の悪い宿の宿泊者はほぼ単独旅でそれぞれが個性的なのだ。というか、皆人生ドロップアウト寸前、もしくはしてしまっている人が多い気がした。
社会には不適応な感じだが、魅力的な雰囲気と人懐っこさを抱えている。実に面白い。
そんな事をしみじみ思いながら、風呂に向かった。
用意をしている時、お風呂の道具がない事に気づく。
昨夜の富山の脱衣所の情景が朧げに浮かび、あっと声が出る。
「富山ユースに脱いだ下着とタオル入れた袋、忘れてきてるやん!」
お清めで「頭が真っ白、身体も浄化されたと思ったが、汚れたパンツやタオルまで置いてきてしまった。」
お清めおそるべし。

一日分の下着とタオルをロストしたのは痛い。何処かで買うという事はそれだけ無駄な金を使うということだ。
それでもパンツを忘れてきた自分が可笑しくて何度も笑ってしまう。
また、風呂に入りながら、さっきの旅人たちの笑い話がぶり返してきて、一人ゲラゲラ笑いながら湯船に浸かった。

こういう出会いがあるから、旅は面白い。
さっきまで妖怪の館に迷い込んだ気分だったが、今は最高のユースホステルに思えてきた。

風呂から上がると仲間に洗濯機が無料で使えることを教えてもらった。
僕は一枚減ってしまったパンツを考えて早めの洗濯をする。

それとお尻の肛門のあたりがとっても痛い事を思い出す。
風呂に浸かった時、ヒリリと切り傷のように痛かった。
自転車を長時間漕いでいるせいで擦れたのが原因。
昼間は日焼けで腕も脚も痛かった。しかし座っているお尻にもダメージがあったのだ。
この日、肌に塗ったオロナインと濡れタオルで日焼けの痛みが薄らいだように、
お尻にも良いかもしれないとオロナインを塗ってねた。
これが意外にも効き目があった。

16歳の僕と56歳の俺の反省会

▶ 16歳の僕
「いや、ロマンですやん!テントと調理道具とか!」

▶ 16歳の僕
「そうでした。それでようやく送り返す決心がつきました。」

▶ 16歳の僕
「マジで殺すつもりかと思いました。」

▶ 16歳の僕
「はい!可愛い普通の女の子に見えたんですけど…、すぐに正体が分かって怖かった!」

▶ 16歳の僕
「オロナイン塗ったらマシになったんです!」

  • あなたは旅先で「これは要らん!」と思って荷物を減らしたことありますか?
  • 股ずれの痛み、経験あります?(自転車以外でもOK!笑)

コメントでぜひ教えてください!😊

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