旅のタイムカプセル

#5 日和山般若の恐怖─そして守護神欽ちゃん布団(柿崎〜新潟)

日和山ユースの怪—日和山般若と小べしみの巣窟

部屋に戻り、僕は旅の記録ノートを開いた。

このノートには、泊まった宿や出会った人に、一言ずつ何か書いてもらっている。
せっかくだから、日和山ユースのペアレンツ(宿の主人)にも何か書いてもらおう

「あのぅ、すいません!」
「何?」「ポン」
「んっ?」やっぱり変な音がする。しかし、僕は気にせず続けた。
「泊まった宿にいつも宿の名前など記念に書いてもらってるのですが、何か書いてもらえますか?」

すると、おばさんの目が急に吊り上がった!

「何でそんなこと書かすの!ポン!」

突然、凄まじい声が響いた。
恐る恐る伏せ目がちにおばさんを見ると、
「能の面」いわゆる「般若」顔になっていた。
「おわっ!人間じゃない!」

「日和山般若」、宿泊手続きの時から愛想はないし、
とにかく1つ1つの対応が面倒そうで悪態をつくのだ。
しかも、説明のたびに「ポン」「ポン」口癖。
「んっ?違う。この軽快なサウンド、これは小鼓だ。」

「ポン!ポポン!ポンポポポポン!!!」

すべての楽器が出揃ったようなサウンドに日和山ユースは包まれた。
笛、太鼓、小鼓、そして「日和山般若」の迫力は凄まじくなっていた。
「ポン!ポポン!ポンポポポポン!!!」
「ピーヒャラ、ピーヒャラ〜、ドン、ドドン!」
もう、まるでこのチャンスを窺っていたかのように、
「おのーれ!」
「笛、太鼓、小鼓、般若の怒号——」

日和山般若

出現場所 新潟県日和山

出す飯が囚人飯
襖を足で開ける
鋭い目つきでいきなりキレる
「なんでそんなん書かすの〜!」
欽ちゃん布団に弱い
旦那は小べしみ
「ポンポン、ピーヒャラ〜」怒り出すと能楽サウンドがサラウンドで流れる

気がつけば、僕は一人、能舞台のど真ん中に立たされていた…!

「あっ、そうか!『るらっるらっ女』のボスだ!」
僕はようやく気がついた。そうか、昨日、今朝の仇討ちなのだ。

日和山般若は「クワァァァッ!」っと叫ぶと部屋中の襖がバタバタ開いた。
「日和山ユース、ついに封印解除か!」

僕は地鳴りする日和山ユースで何が起ころうとしているのか分からなかった。

「ホーっ、ホッホッホーッ!」
「テンツクテンツク(陽気なサウンド)」

先程道案内してくれた「白色尉の翁」が背後にやって来た!
すると奥から大きな声がした。

「それくらい書いてあげたらいいだろ!」

奥から主人らしき声がした。「小べしみ」だ。
「へ」の字に曲げてつむんだ圧(へ)し口(ぐち)が特徴の鬼だ。

「それくらい書いてあげたらいいだろ!」と「小べしみ」がもう一度言った。
「何で!面倒臭いのに!」と「日和山般若」
「小べしみ」は僕の背後で「白色尉の翁」が守っている事に気付いたようだ。
ここで僕に手出しする訳にはいかない。
「こんな事ならお願いしなければ良かった。」
僕のくだらないお願い事で、まさか妖怪夫婦喧嘩になるなんて…..。
出てきた日和山般若は

「仕方ないねっ!」

と僕のノートをひったくって再度奥に引っ込んだ。

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

まるで地鳴りのような足音を立て、日和山般若が迫ってくる。
「うわっ!?」
予想以上の迫力に、私は思わず後ずさる。
(こ、こいつ……圧が人間じゃない……!)

「じゅわーっす!じゅわーっす!」

叫び声を上げながら、日和山般若はペンを掴むと、

「日和山ユースホステル」

とダイイングメッセージのような凄い字で殴り書きした。
ノートは宙を舞い、バサッと僕の手元に落ちた。」
「般若の目がギロリと光る。まるで『二度と頼むな』と言わんばかりに。」
「こ、怖ぇ……」

僕は、ノートを掴んで部屋へ戻った。

ユースホステルに泊まると、出会う人。
何かしら妖怪が潜んでいる。

何故、こんなに怪しくも不気味なユースホステルに泊まらなければならないのだ!

大体、ユースホステルとは旅をする人たちをサポートする理念で誕生したドイツ発祥のシステム。
儲けを度外視した旅人が好きなオーナーがユースホステル連盟に加入し、宿を運営する事になっている。だからオーナーでなく旅人の親のような存在ということでペアレンツと呼び、雇ったスタッフはヘルパーと呼んでボランティアの一環という形式で運営しているのだ。
だから大抵のユースホステルの人々は人懐こくて優しい。

と、噂では聞いていた。

なのに前日のユースのヘルパーは「るらっるらっ女」だし、
このユースに至ってはオーナーが「日和山般若」って、どう言う事?

福井では重いブラウン管テレビを運ばされるし、唯一何にもなかったのは富山ユースだ!

いやっ、何にもないことは無い!
パンツを忘れたぞ!
あれもまやかしの仕業か?

もしかして、、、、ユースはそういったシステムを利用して「旅人をHPを削る妖怪の棲家」?
僕はユースホステルのヤバイ実情に気付いてしまったのか?
僕は「日和山般若」の出現に狼狽えながら、とにかく気を確かにと身構えた。

「ユースホステルの闇、深すぎる……!!」

この旅、果たして僕は無事に生き延びることができるのか……!?

仲間登場

僕は部屋で考えていた。
今夜は大丈夫だろうか……?

ここまでのユースホステルの流れを考えると、まともに寝かせてもらえる気がしない。
昨夜は「るらっるらっ女」、今日は「日和山般若」。
明日は一体どんな妖怪が出てくるのか……。

そんなことを考えていると、部屋に新たな旅人がやってきた。
サイクリストがひとり、ライダーがひとり。

計3人、今夜はこのメンバーで相部屋らしい。

「おっ、よろしく!」
「こちらこそ!」

二人とも陽気で話しやすいタイプだったので、少しホッとした。
これで、もし何かが起こっても心強い。

伝説級のユースホステル

旅人が3人も集まれば、話題には事欠かない。
それぞれの旅のルートや、これまで泊まった宿の話。

そんな話をしていると、いつの間にか夕食の時間になった。

「……まさかとは思うけど……」

僕ら3人は、少しだけ期待を込めて食堂に向かった。
昨夜の妙智寺ユースの食事は酷かったが、ここはどうだろう?

そして──

「うわっ、なんじゃこりゃ!」

目の前に置かれたのは、漫画みたいな大盛りのご飯。
しかも、ご飯だけならまだいい。

骨と皮だけの焼き魚。
具のない味噌汁。
──以上。

「うっそだろ……?」
ライダーが呆然とつぶやく。

「……オバケのQ太郎の漫画で見たことあるやつじゃん、これ……」

僕は心の中で泣いた。
昨日の寺ユース以上に手抜きの食事があるなんて……!
って言うか、朝の「るらっるらっ女」の食事と同系!
「るらっるらっ女」弟子→「日和山般若」師匠!
マジか!?

しかし、ここで落ち込んでも仕方がない。
どうせなら笑い話にしてやろう。

「いやぁ、一生忘れないだろうね、このユース!」
「忘れたくても忘れられない!」
「ある意味、貴重!」

次第に、話題はこれまで泊まった宿の話になった。

僕ら3人で話し合った結果──

このユースは間違いなく、妖怪ユースホステルのトップオブトップ!

そういう結論に達した。

欽ちゃん布団のご加護

食事を終え、部屋に戻る。
もう明日も早いし、寝ようかということになった。

押入れから布団を出す。

「……なんだ、この布団?」

広げた瞬間、全員が固まった。

欽ちゃん。

デカデカと描かれた欽ちゃんの顔。
しかも、ペラッペラの布団。

「コレ、サクラカラーの景品ちゃいます?」

僕のツッコミに、二人は大爆笑。

「いやいや、コストカットの方向性が絶妙すぎるでしょ!」
「こんな微妙なポイントで節約してくるとは……さすが日和山ユース!」

笑いながら布団をかけようとした、その時。

僕は気がついた。

(……あれ?)

欽ちゃんの顔が……**「白色尉の翁」**に見える。

「そうか! これは白色尉の翁が用意してくれた厄除けなんだ!」

「これは魔除けかもしれませんね!」

僕の言葉に、二人も真顔になる。

「そうと分かれば、みんなこの布団をかけて寝るべきだね!」

こうして、僕たちは3人とも「欽ちゃん布団」をかけて寝ることにした。

電気を消すと、月明かりに照らされた欽ちゃんの顔がぼんやりと浮かぶ。
微妙に波打つ布団のせいで、それぞれの欽ちゃんの表情が違って見える。

「みんな、ちょっとずつ顔が違うね。」

サイクリストの欽ちゃんは怒っているようでもあり、
ライダーの欽ちゃんは楽しそうに笑っているようでもある。
僕の欽ちゃんは、やけに面長な顔だ。

「……ちょっと怖いな。」

そんなことを言い合っているうちに、疲れで意識が遠のいていく。

般若の怨念、消滅……?

──「ポン!ポポン!ポンポポポポン!!!」
──「ピーヒャラ、ピーヒャラ〜、ドン、ドドン!」

遠のく意識の中、あのサウンドが聞こえた気がした。

「ホーっ、ホッホッホーッ!」
「テンツクテンツク……」

その時、布団がふわりと淡く光ったように見えた。

すると、あの「ポン!ポポン!」の音が、どんどん遠ざかっていく。
(やっぱり……この布団は、白色尉の翁が用意してくれた魔除けなんだ……)

もしこの布団がなかったら、僕たちは今頃「日和山般若」に喰われていたかもしれない。

「……良かった、欽ちゃん布団。ありがとう、白色尉の翁……」

最後に、もう一度欽ちゃんの顔を見た。
その顔は、どこか優しく微笑んでいるように見えた──。
こうして、僕たちは無事に眠りについた。

明日こそ、妖怪のいないユースホステルに泊まれますように──。

16歳の僕と56歳の俺の反省会

16歳の僕
「いやぁ…朝から妖怪バトル、銀行難民、能楽ホラー、欽ちゃん布団のご加護まで…まさかこんなに盛りだくさんになるとは思いませんでした。」

16歳の僕
「でも銀行の件はマジで焦りましたよ。都市銀行が地方で無力とは…。」

16歳の僕
「新潟まで行けばあるって信じて走ったのは良い経験でしたね。」

16歳の僕
「妖怪ユースホステルの連泊がキツかったですね…。」

16歳の僕
「るらっるらっ女 → 日和山般若 の連続攻撃…キツかったです。」

16歳の僕
「まぁ…でも、お清めの儀(温泉)もあったし、欽ちゃん布団という奇跡の魔除けも手に入れましたからね!」

16歳の僕
「でも楽しかったですよ!この日あった出来事、一生忘れられないですし!」

16歳の僕
「次こそは妖怪のいない宿に泊まりたいですね…。」

  • あなたは旅先でお金がおろせなくて困ったことはありますか
  • また、凄いユースホステルに泊まった事はありますか?

コメントでぜひ教えてください!😊

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