旅のタイムカプセル

#7 “紫外線魔王”と”脱水ドクロ”の猛攻 (鶴岡〜秋田)

1985年8月2日 旅の朝と食パン2枚の掟

午前7時、起床。

……疲れが抜けていない。

顔を洗い、歯を磨く。
鏡を見ると、そこにはむくんだ自分の顔。
瞼は腫れぼったく、肌はくすみ、どことなく覇気がない。
(……俺、大丈夫か?)

言葉にしなくても、鏡の中の自分が「めっちゃ疲れてます」と訴えている。
旅の疲労が蓄積され、じわじわと身体に影響を及ぼし始めていた。

それでも、食欲だけはあった。
これは救いだ。

朝食の会場へ向かう。
昨夜、相部屋だった旅人たちと同じテーブルにつく。

テーブルの上には、大量の食パン。

(……パンかぁ。)

普段、僕は朝は絶対に白ご飯と味噌汁派。
なのに、今日は朝からパンが主役。
正直、ちょっとガッカリした。

(まぁ、腹は減ってるし、とりあえず食べるか。)

そう思いながら、一口食べる。

——意外に美味しい。

(ん? なんか……めっちゃ美味しくないか?)

まさか旅の疲れで味覚が変わったのか?
それとも、このユースのパン、実はこだわりの逸品なのでは……?

一緒に食べていた旅人たちも同じことを思ったのか、
「美味しいね!」「このパン、すごくない?」と盛り上がる。

気づけば、4枚目のパンに手を伸ばしていた。

すると——

「今日はお客さんが多いので、一人2枚でお願いします!」

——食堂のスタッフの声が響く。

(えっ?)

僕の手の中には、ちょうど今食べようとしていた4枚目のパン。

(あっ……やっちゃった……)

同席の旅人たちも、3枚目・4枚目のパンを口にくわえたまま固まっている。
目が合い、苦笑い。

(知らなかったんだから、仕方ないよな……)

僕らは何食わぬ顔でパンを噛みしめ、静かに席を立った。

食べ終わったものは、もう戻せない。

金髪妖女の幻影

午前8時、鶴岡ユース出発。

最後に、もう一度あの金髪妖女を見たかった。

朝食の席にいたなら、「おはよう」くらいは言えただろうか?
いや、たぶん相手の「Good morning」に対して、
僕の口からはまた「ドモアリガトウ」くらいしか出てこなかった気がする。

結局、彼女の姿を見ることはできなかった。
すでに出発していたのか、まだ眠っていたのか——。

……ほんの少し、心残りだった。

僕は深く息を吸い込み、ペダルを踏み出した。

——7日目、スタート。

海岸線をゆく!

鶴岡市街地には向かわず、僕は海沿いの道を目指した。
朝の海は、まるで祝福された聖域のようだった。

県道に入ると、車はほとんどいない。
道はまっすぐに海へ伸びているかのように見える。
風は潮の匂いを運び、波音が一定のリズムで耳に届く。
朝の光が波に反射し、キラキラと踊っていた。
(綺麗だ……)

走っていると身体がほぐれてきた。
美しい景色に心が洗われていく。
「旅してるなぁ」と実感できる瞬間。

午前10時、最上川を渡る。

この大河を越えれば、そこはもう酒田市。
海沿いの静かな道から、再び国道7号線へ——
途端に交通量が増え、一気に走りづらくなった。

(やっぱり、国道はストレスだな……)

トラックの轟音、排気ガス、灼熱のアスファルト。
さっきまでの清々しい気持ちはどこへやら、僕は再び現実に引き戻された。

(次ページ、スイカVSメロン内戦勃発!)

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