旅のタイムカプセル

#7 “紫外線魔王”と”脱水ドクロ”の猛攻 (鶴岡〜秋田)

フルーツ天国、遊佐町

酒田市を抜け、遊佐町へ入ると、急に果物の直売所が増えた。
「スイカ」「メロン」「お土産発送できます!」と派手な看板が並ぶ。
(スイカかぁ……喉乾いてるし、ちょっと寄ってみるか)

ふと目についた一軒の直売所に自転車を停めると、
店先にいたおばちゃんがニコニコしながら声をかけてきた。

「お兄ちゃん、旅の人かい?」
「はい、そうです!」
「じゃあ、これ食べてみな!」

手渡されたのは、冷えたスイカの一切れ。
かぶりつくと、じゅわっと甘い果汁が口いっぱいに広がる。

「美味い……!」
「でしょ? もっと食べるかい?」
(えっ、いいの?)

おばちゃんは豪快に包丁を振るい、スイカを次々と切り分ける。

「ほら、おかわり!あんたみたいな旅の子には特別サービスだよ!」

……いいのか、こんなに!?

結局、僕はスイカを3切れ、さらにメロンを2切れもご馳走になった。
しかも、メロンは種類が豊富で、青肉・赤肉・黄色まである。

「こんなに種類あったんだ……!」

「気に入ったなら、送ってくかい? 6個入りで2,000円だよ!」
(6個で2,000円!? 安い!!)

僕は即決し、スイカとメロンを一箱ずつ実家に送ることにした。
(きっと家族も喜ぶだろうな……)

ただ、ふと冷静になって考えると——

送料込みで6,000円、2日分の予算が吹っ飛んでいた。
(……あれ? 俺、明日から何食べる?)

ま、まぁいいか。

「ありがとう! 」

僕はおばちゃんに礼を言い、満足して直売所を後にした。

内戦勃発!? スイカ vs. メロン

——それから約1時間後。

突然、腹に鋭い痛みが走った。
(……っ!?)

思わずハンドルを握る手に力が入る。
胃のあたりがギュウゥゥッと締め付けられるように痛む。
(やばい……これは……)

スイカとメロンの内戦が始まった!!!

冷たい果物を空腹のまま大量に食べたせいだろうか?
胃腸が完全に氾濫を起こし、緊急事態宣言が発令された。
(っ……トイレ!!)

停戦交渉をする間もなく、
僕はトイレを求めて踏むペダルを速めた!!

「緊急事態」——トイレを探せ!

「痛い……!!」

突如として腹に襲いかかる激痛。
まるで胃袋の中でスイカとメロンが血みどろの戦争を繰り広げているようだった。
(やばい……これは……ヤツが来る……!!)

頭の中で赤色警報が鳴り響く。
緊急事態発生!!

目の前に広がるのは、田んぼと果樹園。

——トイレがない!!!

選択肢
① ここで脱落する(却下)
② 草原の隅でスイカとメロンを自然に還す(最終手段)
③ 全力でトイレを探す(これしかない!)

決断:③ 全力疾走!!!

僕は祈るように自転車を漕ぐ。
(なんでもいい……公園の公衆トイレでも駅でもいい……!!)

しかし、この道沿いにあるのは、果物の直売所ばかり。
店はある。でもトイレがあるとは限らない。
(ダメだ……!もう限界だ……!!)

その時——!!

「象潟駅 → 1km」

——神の看板を発見。

「助かった!!!!」

トイレの神降臨

全身の力を振り絞り、僕はラストスパートをかけた。
僕は競輪選手のゴル手前の攻防のように全速力で駆け抜ける。
心拍数MAX、視界はブレる。

ゴール!!

視界の先、ついに——駅のトイレが!!

バンッ!!!

扉を開ける!!

——そして、間一髪!!!!!!
(間に合った……)

トイレで悟る

トイレで、荒い息を整える。
(……もうダメかと思った)

額からは汗が滴り、足は震えている。

「旅にトイレの神は必要不可欠である」

僕はこの瞬間、深い悟りを得た。

旅の過酷さ、食べ物のありがたみ、そして——トイレの尊さ。

「トイレこそが、この世の救済主である……」

トイレの神

出現場所 世界中
属性・・・神
世界中の旅人の腹痛のピンチを救う
大惨事を救ってくれるがいつも登場するとは限らない

僕は旅の新たな教訓を得て、トイレに深々と手を合わせた。

「ありがとうございました……」

やがて、腹痛が落ち着くと、僕はゆっくりと立ち上がり、トイレを後にした。

外に出ると、空はどこまでも青く、心なしか風が優しく感じられた。

「よし……行くか」

僕は自転車にまたがり、再び北を目指した。

——スイカとメロンの内戦を乗り越えた戦士として。

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