旅のタイムカプセル

#9 さらば本州!北海道上陸と”イクサンダー大沼”の夜

1985年8月4日 強制起床

「朝だぁ、起きろー!」

「朝だぁ、起きろー!!」

「……は?」

ガンガンガン!!と、何かを叩く音が響き渡る。

目を開けると、まだ薄暗い食堂。

体が重い。頭もぼーっとする。というか、そもそも寝た気がしない。

昨日は深夜まで酔いどれ百鬼たちの大宴会に苦しめられた。
やっと静かになった頃には、すでに日付が変わっていた。

「それなのに……もう朝!?」

時計を見ると、まだ5時前。

信じられないことに、食堂で寝ている人はこの時間に強制的に起こされるらしい。
理由は「テーブルを出して朝食の準備をするから」。

そんなの、聞いてない。

いや、そもそもこんな状態の宿に泊まったことが間違いだったのか……。

怒りの「弘前ねぷた狂魑魅魍魎ユース」

それにしても、眠い。眠すぎる。

しかも、体調は最悪。風邪は治るどころか悪化している気がする。

元気だったら、こんな場所さっさと飛び出していただろう。
しかし、体が言うことをきかない。

仕方なく、僕は食堂の隅でしばらく居眠りしていた。

7時、朝食開始。

テーブルに並んだのは、クロワッサン、卵焼き、サラダ。おしゃれな洋風朝食。

……だが、僕は思う。

「サイクリスト向けじゃねぇぇぇ!!」

昨夜の仕打ち、今朝の仕打ち、そしてこの朝食。
もう、すべてが腹立たしい。

「満員なら満員と、断ってくれた方がマシだった……!」

詰め込みすぎの宿泊スタイルに怒りが込み上げ、
僕はここを「弘前ねぷた狂魑魅魍魎ユース」と認定。

そして、数々のひどい宿の中でも、ここはワースト2位にランクインした。

……だが、トップの座は揺るがない。

そう、最悪ユース・オブ・最悪ユース――「日和山ユース」の牙城は崩れなかった。

日和山ユース、恐るべし。
日和山ユース、愛すべき存在。
そして、宿の主・日和山般若。

……アイツを超えるヤツは、まだ現れない。

青森へ!初めての北海道行きチケット!

風邪を引いている上に寝不足。

とにかく身体が動かない。

でも、9時にはチェックアウトしなければならない。
重い体に鞭打ち、ようやく出発したのは8時40分。

「でも、あと40キロで青森……!」

そう思うと、少しだけ気が楽になった。

どれだけしんどくても、青森港まで行けばフェリーに乗れる。
フェリーにさえ乗れば、北海道までの間、ゆっくり休める。

その安心感が、僕を支えていた。

道は思った以上に走りやすかった。

100メートルほどの小さな峠「鶴ヶ坂」を越えれば、あとはなだらかな下り坂。

重たい体を、坂道がそっと押し出してくれる。

「助かる……」

まるで、道が「よく頑張ったな」と労ってくれているようだった。

そして、11時――。

青森フェリーターミナル到着!

そのまま乗船手続きをし、11時20分。

僕は、ついに手に入れた。

「北海道行きのチケット!」

ただの紙、だけど、重い

この手に握りしめた紙切れが、僕にとってどれほど大きな意味を持つのか。

初めての新幹線。
初めての飛行機。
それらのどのチケットよりも、ずっと嬉しい。

何せ、このチケットを手にするまでに1300キロも走ってきたのだ。

見た目はただの紙。

だけど、僕にはずっしりと重く感じた。

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